2022 Fiscal Year Annual Research Report
都市景観計画のためのGISとAI技術を用いた複合評価システムの開発
Project/Area Number |
22F21065
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima University |
Host Researcher |
西名 大作 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (60208197)
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Foreign Research Fellow |
JIANG RUI 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2022-07-27 – 2024-03-31
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Keywords | 河川景観 / 複合評価システム / 領域抽出手法 / GIS / CG画像 / 心理評価実験 / 景観構成要素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,景観形成の全体的な過程を把握するため,「都市計画→物理評価→心理評価」の一貫した関係を想定し,その全容を明らかにすることを意図する。既往の研究成果では,河川景観の総体的評価である「満足意識」が,「緑視性」「建設性」「開放性」「複雑性」の4因子によって説明され,前二者については,景観画像に含まれる緑,建物の面積比が多く影響し,それらが2D的なGISデータに基づいたCG画像によって算出可能であることを示した。しかしながら,現状のGISデータには建物の平面形状や高さ情報は存在するものの,緑に関する情報に乏しいことから,太田川市内派川の河岸上空にてドローンを飛行させ,得られた空中写真に三次元測量技術を適用した。深層学習の領域抽出手法をオルソ画像へ適用し,緑の平面的な領域を求めると共に,DSMデータとDTMデータの差をとることで高度分布を求め,両者を組み合わせることで,位置情報と高度情報よりなる詳細な緑のGISデータを獲得した。 このデータを活用したCG画像を太田川市内派川23地点の対岸景について作成し,算出した構成要素面積比を,実際の河川景観写真の面積比と照合させた。その結果,緑を円柱等で簡素に表現した既存のCG画像に比べ高い一致性が確認された。また,新たなCG画像を用いた心理評価実験も実施したが,多くの評価項目で,景観写真から得られた傾向との類似性が,既存のCG画像で得られた傾向より高く,視覚的印象についても新たなCG画像の適用性を示すことができた。 一方,後二者の「開放性」「複雑性」については,研究代表者らがこれまで提唱してきた「見通しエリア」の考え方から,これら心理評価を説明する都市空間指標を既に提案しているが,建物のみの情報に留まっていた。今回,緑に関する詳細情報が得られたことから,緑についても拡張し,上述した23地点について,その適用性について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで対象としてきた,太田川市内派川に選定した48地点が網羅されるよう,それらの上空におけるドローンの飛行計画を立案したが,飛行禁止区域等の制限があり,また,撮影時の不具合等で大幅な地点数の減少が生じたことから,計画に多少の遅延が生じた。しかしながら,撮影した23地点の空中写真への三次元測量技術の適用により,中心投影の写真から歪みが修正された正射投影のオルソ画像を獲得し,同画像に深層学習の領域抽出手法を適用することで,緑の平面的な分布を得た。また,同様に取得したDSM,DTM両データの差をとることで,0.2 m間隔での高度情報を求め,両者の組み合わせにより,位置情報と高度情報よりなる詳細な緑のGISデータを獲得した。 このデータに基づいて,微細な高度の違いが反映されたCG画像をGIS上で作成した。その際,緑は0.2 m間隔に対応した円柱の集合体として表現した。このCG画像から建物と緑の面積比を求め,簡素な円柱で樹木を表現した既往研究のCG画像から得られた面積比と比較した結果,景観写真との誤差は,緑と建物のいずれにおいても低下した。 また,新たなCG画像を呈示する心理評価実験を実施したが,緑の形状が実際に近づいたことから,緑の背後にある建物の見え方が景観写真とほぼ同様となり,建物に関しては景観写真の心理評価に接近した。一方,緑に関する評価では逆に違いが大となったが,新たなCGに採用した色彩による影響と想定された。 さらに,緑のGISデータの検討により樹木の位置や樹幹を抽出し,改めて単純な円柱として再現した上で,建物の配置状況や重層関係を変化させた心理評価実験結果に基づいて提案した既存の都市空間指標に改良を加え,その適用性について検討した結果,緑と建物の存在する実際の河川景観写真については,建物のみによる都市空間指標と比較して,説明力の著しい改善が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
ドローンによって撮影した空中写真に三次元測量技術を適用し, AI技術である領域抽出手法を用いることで,得られたオルソ画像から緑の平面的な分布を取得するなど,緑に関する位置情報,高度情報よりなるGISデータを取得する方法論については,初年度で概ね確立できた。今後は,これまで対象としてきた太田川市内派川における代表23地点のみならず,状況が異なる他の多くの地点においても同様の方法論を適用して緑や建物の面積比を求め,景観写真から求めた面積比と比較することで,同手法の適用性について,さらなる検証を図る必要があるものと考えている。 また,既存の建物データに緑に関するGISデータを加えることで,新たに提案した都市空間指標についても,太田川市内派川に設定した23地点の実際の河川景観を対象に適用性を検討したのみであることから,将来景観に対する心理評価の予測に活用する意味からも,建物の配置状況や重層関係のみならず,緑の配置状況も合わせて,双方を独立に変化させた,現実には存在しない仮想的なCG画像を作成,心理評価実験を実施することで,より多様な河川景観における適用性を検証すると共に,都市空間指標のさらなる改善可能性についても検討を加える必要がある。 さらに,これまでの検討によってより具体的となった「都市計画→物理評価→心理評価」の系統的な関係をふまえ,被験者を用いた心理的評価実験の範疇を超えて,様々な価値観を有する人達への,また,これまで研究対象としていない太田川市内派川の他の地点への適用性を考え,河川沿いの住民に対する意識調査を実施する。得られた河川景観に対して住民が抱く心理評価と,対応する河川状況から求められる物理評価や都市空間指標,それらに基づく心理評価予測値との対応関係を求め,本研究の根幹となる複合評価システムの汎用性について確認する。
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