2021 Fiscal Year Annual Research Report
Scientific research on color pigments in ancient East Asia
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21F21006
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
今津 節生 奈良大学, 文学部, 学長 (50250379)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RYU SUNGWOOK 奈良大学, 文学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2021-09-28 – 2024-03-31
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Keywords | モンゴル / 顔料 / 保存科学 / 東アジア / 古代顔料 |
Outline of Annual Research Achievements |
絵画や工芸品などの有機物は歴史の中で朽ち果てるが、鉱物の粉を用いる顔料は遺跡の中で色鮮やかに残る。彩色材料としての顔料は、古代より様々な種類が使用されており、遺跡および遺物の顔料の科学的調査研究は、古代国家間の文化交流を探る鍵となる。今年度は下記の研究の成果を上げることができた。 ①東アジア諸国における古代顔料についての研究調査を行い、日中韓の古代顔料について先行研究を中心に文献資料をまとめた。 特に中国を中心に先行研究の調査を実施した。 中国の古代顔料に関する先行研究は、1960年代以降から2020年代までの論文を対象に調査した結果、最近20年間活発に行われたことが分かった。特に、日本と韓国に比べてラマン分光分析法を用いた古代顔料の同定が多く行われていることが確認された。調査した先行研究は、「秦」から「清」に至るまで時代別に分類して、その時代に使われた顔料を整理中である。 ②コロナ禍の感染状況がまだ沈静化していないので、今年度はモンゴルにおける現地調査は難しい状況である。そこで、これまでの現地調査で採取しているモンゴルの古代顔料の試料について、日本の研究機関で走査型電子顕微鏡(Scanning Electronic Microscope, SEM)、蛍光X線分析(X-ray Fluorescence Analysis, XRF)、X線回折分析(X-ray Diffraction Analysis, XRD)を用いた科学的調査(成分分析)を行う。 ③日本・中国・韓国・モンゴルで入手できる天然顔料を標準試料として、顔料の劣化実験を行う。埋蔵環境での顔料の変質傾向を調査するため、試料を土中に埋めて水分と二酸化炭素の影響による変化に注目する。定期的に顔料の変質状況をXRF、XRD、SEMを用いて調査する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
モンゴルは、長年に渡る中国との争いと交易、モンゴル帝国の興亡と東西交流など、東アジアの歴史を解明する上で重要な地域である。そこでモンゴルの草原地帯の発掘調査に同行して試料を採取し日本で分析化学的な調査研究を進める。今年度はコロナ状況により、積極的なモンゴル現地に対する海外調査の実施には困難があった。したがって、国内の調査を中心に進め、新型コロナウイルス感染症が一部収まった国を対象に顔料の調査を実施した。 ①古代モンゴルの顔料に対する調査は、今年度は現地調査が難しいため、以前現地で収集してきた試料を対象にXRF、XRD、SEMなどを用いた科学的調査を実施した。 ②東アジアにおける古代顔料についての先行研究をまとめ、データベースを構築する研究については、今年度は中国の先行研究を時代ごとに整理し、日本語に翻訳を行っており、現在までに34本の論文を翻訳している。翻訳した論文から確認された古代顔料は、時代別に区分し、データを整理して、古代中国における顔料の歴史を整理中である。 ③埋蔵環境に露出された市販顔料の時間による変化については、現在鉛系顔料を対象に実験を進めており、短期間での粒子形状の変化が観察された。変化した粒子は、モンゴルで収集した試料の粒子形状とも類似した側面を持っている。これは古代顔料の同定において、粒子形状を逆に推測できる資料として活用できるものと考えられる。 ④韓国出張を行い、市販顔料に対する収集調査を実施した。韓国の古代顔料の製造技術は、朝鮮後期から数百年間に失われてきたが、2013年に天然鉱物を利用した顔料の生産に成功した。今回収集した韓国の古代鉱物顔料と以前収集した日本と中国の天然鉱物顔料との比較を通じて、現在生産されている東アジアの国別顔料の共通点と相違点を確認することができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度には、以下の3項の研究を行う予定である。①1次および2次モンゴル現地調査(10日間)による古代顔料の試料採取および日本の研究機関でのSEM、XRF、XRDを用いた科学的調査(成分分析)を行う。それぞれ約10日間行われるモンゴルの現地調査は、モンゴル国立文化遺産センターとザナバザル美術館、カラコルム国立博物館の協力を通じて実施する予定である。調査対象となる主な時代は、紀元前2世紀から紀元後2世紀までの匈奴時代、紀元後7世紀頃の突厥時代、紀元後13世紀頃のモンゴル帝国時代が中心となる。②前年度の試料に対して、定期的に変質状況をXRF、XRD、SEMを用いて調査する。顔料別の変質状態(化学構造および粒子形状の変化)などを整理し、データベースを構築する。 前年度に実施した鉛系顔料の埋蔵実験に加え、鉱物系顔料など多様な顔料を異なる条件の様々な環境に露出させ、変化を観察する予定である。また、モンゴルなどで実際に発掘した遺物の顔料について、変質の可能性を検討する比較資料として活用する。③前年度からの研究成果をまとめて、日本の文化財科学会および東アジア文化遺産保存国際学会, 韓国文化財保存科学会などで発表する。 令和4年度は、モンゴルにおける安全な現地調査と国内の学会発表のために旅費の割合が高くなる。
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