2022 Fiscal Year Annual Research Report
有孔虫の脱窒メカニズムを理解するための壁孔、液胞のバイオメトリクス
Project/Area Number |
22F21729
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
野牧 秀隆 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 主任研究員 (90435834)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RICHIRT JULIEN 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 貧酸素適応 / 液胞 / バイオメトリクス / X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
相模湾深海底から採取した堆積物を深度ごとにサンプリングすることで、有孔虫Bolivina spissaを酸素濃度および硝酸塩濃度の異なる環境(堆積物深度)ごとに分取した。酸素濃度は船上でのマイクロ電極による計測により、硝酸塩濃度は陸上での吸光度分析により定量化し、生息環境データを取得した。採取した有孔虫試料はグルタールアルデヒドを用いて固定し、樹脂包埋、金属染色後にマイクロフォーカスX線CTを用いた内部微細構造解析を行った。得られたデータを3次元画像構築・解析ソフトを用いて解析し、環境間・種間で硝酸塩を貯める液胞の大きさ(表面積、体積)や数に違いがみられるかを検討した。 生息環境における硝酸塩濃度の違いと液胞の表面積、体積、個数には明確な関連が見られなかった一方で、房室ごとの液胞サイズには、初室側、最終室側、中間部で一貫したパターンが見られた。このことはそれぞれの房室において液胞の役割や活性が異なっていることを示す。さらに、Cryo-SEM-EDSを用いて硝酸塩に由来する窒素が液胞にどのように含まれているかを解析したところ、特定の部位に集中している様子が見られた。この構造を詳細に観察すると、サイズや細胞内での配置などから、一部は液胞であることが推察された。しかし、すべての液胞に窒素が濃集している様子は見られず、すべての液胞が硝酸塩を濃集しているわけではないことがわかった。このことが、生息環境と液胞サイズ、数との間に明確な関連がみられなかったことの原因になっている可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
40個体を超える有孔虫個体から数千を超える液胞データを定量化し、生息環境と液胞とのサイズの関係について検証できた。その結果、当初想定していた、環境とサイズの関連性は見られなかったものの、房室ごとの液胞サイズの傾向を発見でき、房室ごとの機能についての知見を得ることができた。さらに、当初予定はしていなった、Cryo-SEM-EDSによる可溶成分の元素濃度マッピングを行ったことで、液胞のうち特定の液胞が硝酸塩をため込んでいることを発見した。これらの成果は、当初想定していた結果とは異なるものの、貧酸素環境で有孔虫が脱窒をする際にどのように細胞内に硝酸塩を取り込み、貯蔵し、使用するのかについて新しい知見を提供するものであり、当初予定以上に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の解析結果から推測される、硝酸塩濃度の違いによる有孔虫細胞内への硝酸塩取り込み及びその後の蓄積・消費についての知見を検証するため、研究船船上での飼育実験を行う。環境の硝酸塩濃度を変えた飼育実験を行い、培養後の個体をグルタールアルデヒドで固定し、樹脂包埋、金属染色後にマイクロフォーカスX線CTを用いた内部微細構造解析を行う。得られたデータを解析し、自然環境で見られた傾向が実際に環境操作実験でも見られたのかを確認する。また、共同研究者による硝酸塩呼吸活性測定もしくはトランスクリプトーム解析と合わせ、硝酸塩呼吸の活性との関係も明らかにする。さらに、TEM観察との比較を行うことで液胞周囲のミトコンドリア等の細胞小器官の分布を検証し、硝酸塩をため込むと考えられる特定の液胞についてその機能を推定する。
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Research Products
(4 results)