2021 Fiscal Year Annual Research Report
動的経路分岐を記述する化学反応速度論の開発と反応経路網の速度論的解析への展開
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21J20857
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 琢磨 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 反応経路網 / 第一原理分子動力学計算 / 反応速度論 / 動的経路分岐 / 反応経路自動探索法 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、動的経路分岐を含む反応経路網の速度論解析手法の開発を行った。提案手法は以下に示す3つの手法により構成される。 1つ目の手法である、動的経路分岐の自動探索手法は、採用前に研究代表者が開発した動的経路分岐探索手法を用いる。本探索手法は、反応経路自動探索法の一つである人工力誘起反応(AFIR)法を基盤とする。AFIR法は反応物分子に様々な人工力を加え、反応物周りの様々な反応経路を探索する。この時追跡する経路はAFIR経路と呼ばれる。このAFIR法を動的経路分岐が起こる反応素過程の反応物に適用すると、反応物から各生成物へと向かうAFIR経路が得られる。本手法は、AFIR法による探索の結果得られる多数のAFIR経路の中から同じ遷移状態(TS)の領域を通るAFIR経路の組を見つけ出すことにより動的経路分岐を探索する。 2つ目の手法は、AIMD計算を用いた分岐比予測である。本手法において分岐比は、AIMD計算をTS近傍の多数の初期構造から行い、各生成物へと至る古典軌道の本数の比から見積もることができる。 3つ目の手法は、分岐比を取り入れた速度定数の算出である。ここでは、動的経路分岐を、反応物と各生成物の間の素過程へと分解し、それぞれに速度定数を定義することを考える。本研究では、反応物から各生成物へと向かう速度定数の比が分岐比と一致し、それらの和が遷移状態理論で見積もられる速度定数と一致するという条件、及び熱平衡時に詳細釣り合いの原理が成り立つという条件を課すことで、速度定数が、遷移状態理論から見積もられる速度定数と分岐比の積となることを初めて示した。 本速度論解析手法を、過去に動的経路分岐が報告された分子内Diels-Alder反応へと適用し、その結果を国際学術誌であるJournal of Chemical Theory and Computation誌に第一著者として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、本課題の目標の一つであった動的経路分岐を含む反応経路網の速度論解析手法の開発を実現した。本速度論解析手法を過去に動的経路分岐が報告された分子内Diels-Alder反応へと適用した。はじめに動的経路分岐の自動探索手法を適用した結果、動的経路分岐が2つのTSから起こることが初めて明らかとなった。次に、速度論シミュレーションを行った結果、実験の選択性を定性的に再現することができた。また、生成物同士の相互変換は実験のタイムスケールでは起こらず、選択性は動的経路分岐によって決まっていることが本速度論解析手法によって初めて明らかとなった。これにより、一切の事前知識を用いずに、未知の化学反応についての動的経路分岐を考慮した速度論解析が可能になったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に作成した速度論解析手法は、1つの動的経路分岐についての分岐比の算出に多数のAIMD計算を行う必要があり、莫大な計算コストを要する。そこで今後はAIMD計算を用いずに静的PESの形状のみから分岐比を予測する理論の開発に取り組む予定である。2022年度は、はじめに古典力学・量子力学・統計力学的な視点による動的経路分岐のメカニズムの解析をモデルPESに対して行い、次に実際の分子系へと適用可能な理論へと展開していく予定である。
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