2021 Fiscal Year Annual Research Report
Establishment of efficient virus isolation by protease expression cells
Project/Area Number |
21J21075
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸本 麻衣 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | プロテアーゼ依存性ウイルス / ウイルス分離 / 人獣共通感染症 / マストミス / 脳心筋炎ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、プロテアーゼ依存性ウイルスの高効率な分離法を開発し、野生動物検体から新規ウイルスを分離し、その生物学的性状を解析することを目的とする。本年度は、宿主プロテアーゼ発現細胞と次世代シークエンサーによる網羅的ウイルス検出による、以下のワークフローを構築した。1) 宿主膜貫通型セリンプロテプロテアーゼの一種であるTMPRSS2とTMPRSS11Dを共発現する細胞に、ウイルス分離を目的とする検体を接種し、回転培養を用いてウイルスを分離する。3) 盲継代の後に、全検体の培養上清をプール・濃縮し、次世代シークエンサーを用いて分離されたウイルスゲノムの検出を試みる。続いて、構築したワークフローを用いて、ザンビアで採取したコウモリ、および齧歯類動物検体合計約400検体から、確立したウイルス分離システムを用いてウイルス分離を試みた結果、脳心筋炎ウイルス(EMCV)とロタウイルスA(RVA)を分離した。 EMCVは、様々な種類の哺乳類動物に感染し、脳炎、心筋炎を引き起こす。とりわけ、養豚業や野生動物生息環境においてEMCV感染による被害が問題となる。齧歯類動物であるマストミスから分離したEMCVゲノムの系統学的解析の結果、当該EMCVは既知の株と相同性の低いP2領域を有する、分子系統学的特徴を有することが明らかになった。さらに、ザンビアの野生齧歯類動物179匹から採集した材料を用いたRT-PCRと中和試験によりEMCVの感染状況を調査した結果、ウイルスゲノム陽性率は10.6%、中和抗体陽性率は18.4%であった。ゲノムおよび抗体陽性個体は全てマストミスであり、高い中和抗体価を示した個体からもウイルスゲノムが検出された。以上の結果より、ザンビアにおいて、マストミスはEMCVの潜在的なレゼルボアであり、EMCV感染の発生リスクがあることを明らかにした。本結果は論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に沿って、プロテアーゼ依存性ウイルスの高効率な分離ワークフローを構築し、そのワークフローを用いて野生動物由来検体からEMCVとRVAの分離に成功した。分離したEMCVの解析により、単離したEMCVが既知の株と異なった分子系統学的特徴を有すること、また、ザンビアにおいてマストミスはEMCVの潜在的なレゼルボアであり、EMCV感染が発生するリスクがあることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、コウモリおよびマストミスから分離されたRVAについて解析を進める。近年、一部の分節でコウモリや齧歯類由来のRVAと類似した遺伝子型をもつRVAがヒトから検出されており、コウモリと齧歯類動物のRVAのZoonotic transmissionの可能性が懸念されている。しかし、これらの報告はゲノム解析にとどまるものが多く、ウイルスの分離及び性状解析はほとんど実施されていない。 そのためまず、全分節の遺伝子配列情報を決定し、遺伝子再集合の評価、および系統学的解析を実施する。また、異種動物への感染性および病原性を評価するため、乳飲みマウスへの実験感染を試みる。加えて、RVAの付着因子である細胞表面のシアル酸や組織血液型抗原がRVAの宿主域を決定する一因であることが示唆されているため、分離したRVAと各種細胞表面糖鎖の関与を調べる。さらに、ヒト小腸上皮初代培養細胞の3D培養モデルを用いて、ヒト小腸上皮への分離RVAの感染性を調べる。以上の解析から、分離したRVAがヒトへ伝播する可能性を評価する。
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