2023 Fiscal Year Research-status Report
微気候は気候変動下の保全に貢献するか?広域要因との比較による局所保全の重要性評価
Project/Area Number |
22KJ0048
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
崎山 智樹 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
Keywords | 気候変動 / ナキウサギ / 分布 / 微気候 / 小型哺乳類 / 森林 / 高山 / 岩塊地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、気候変動下の生物の存続における微気候の重要性を評価することを目的とする。岩塊堆積地に生息するエゾナキウサギを研究対象とし、岩塊間の空隙に存在する微気候が本種の分布と遺伝構造に与える影響を、外気温や土地利用など他の環境要因と比較し明らかにする。 本年度は、エゾナキウサギの分布周縁部、すなわち低標高域の生息に影響する環境要因を前年度までに取得したデータを用いて調べた。解析の結果、本種の生息に対して、生息地周辺における人工林や農地などの土地利用の面積が負の影響を示すことが分かった。従って、景観スケールでの生息地の減少や景観内の移動しやすさの低下が、低標高域の分布に影響している可能性が考えられた。岩塊地に存在する冷涼な微気候が生息に重要であると予想していたが、人工的な土地改変の負の効果が上回ることが示された。 また、本年度はエゾナキウサギの分布を広域で予測するために種分布モデル解析を行った。空間解像度の粗い気候データ(約1km)を用いた低解像度の解析とダウンスケールした気候データ(約0.1km)を用いた高解像度の解析を行い、モデル間で解析結果を比較した。その結果、両モデルで分布に対して外気温が強い負の影響を示しており、また岩塊地を形成する地質の重要性も示された。モデルの予測性能は高解像度の解析で高かった一方、予測される生息適地面積は低解像度の解析で大きかった。現在は、高解像度のモデル予測に岩塊地の微気候を組み込む作業を進めている。さらに、これまでに収集した本種の分布再訪データから、気候変動の影響により本種の分布がどのように変化しているかを検証中である。 マイクロサテライトDNAを用いた遺伝分析は、北海道内の多地点で採取した新鮮な糞を用いて進めている。しかし、現在着目している複数の領域で遺伝的な多型を確認できていないため、遺伝構造を調べるには至っていない。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、低標高域のエゾナキウサギの分布に影響する要因の解析を計画していたが、当該年度中に実施できた。さらに、種分布モデルを用いた広域的な解析や分布再訪データの整理も大幅に進めることができた。一方で遺伝分析では、新鮮な糞を用いた系を確立できていないため、やや遅れが生じている。全体としては、エゾナキウサギの分布に対する理解が期待以上に進んでいるため、当初の計画がおおむね順調に進んでいるといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに進めているエゾナキウサギの種分布モデル解析に、岩塊地の微気候を組み込んだ場合の生息適地を予測する。その予測結果を、微気候を組み込まない場合と比較することで、分布推定で微気候について考慮することの重要性について議論する。また、これまでに収集したエゾナキウサギの分布再訪データを用いて、気候変動下の影響により本種の分布がどのように変化しているかを、気候、土地利用、生息地パッチ面積の影響に着目し解析を行う。遺伝分析においては、採取した糞についてジェノタイピングを進め、多型性の確認を進める。
|
Causes of Carryover |
育児休暇に伴い研究を一時中断し採用期間を延長したため、次年度使用額が生じた。次年度は、主に消耗品費、英文校閲費に使うことを予定している。
|