2022 Fiscal Year Annual Research Report
氷床コアを用いた植物プランクトン由来の硫黄化合物の変遷解読と大気環境への影響解明
Project/Area Number |
22J10351
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
黒崎 豊 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | アイスコア / メタンスルホン酸 / 硫化ジメチル / 植物プランクトン / グリーンランド / 海氷 |
Outline of Annual Research Achievements |
グリーンランド南東部において掘削されたアイスコアに含まれる、過去55年間のメタンスルホン酸(MSA)堆積フラックスの変遷とその変動要因を解明した。MSA堆積フラックスとの比較解析には、衛星観測により得られたクロロフィルa濃度と、気象再解析データの海氷密接度、海上10m風速を使用した。その結果、春のMSA堆積フラックスは、グリーンランド南部沖のイルミンガー海のクロロフィルa濃度と高い正の相関を示した。また、夏のMSA堆積フラックスは2002年以降に増加した。同時期にグリーンランド南東部沖の海氷融解日が約1か月早まり、夏のクロロフィルa濃度が増加していた。本研究では、植物プランクトンの増加によりMSAの前駆体である硫化ジメチルの大気への放出量が夏に増加していることを、観測データから初めて証明した。本研究成果は、国際誌に査読付き原著論文として発表した。 季節海氷域における海洋生物活動由来の硫黄化合物の定量とその変動要因の解析を行うために、2022年度の冬から春にかけてグリーンランド北西沿岸部にエアロゾルサンプラーと水蒸気安定同位体測定装置を設置し、約2か月分の試料を取得した。また、降雪中のイオン濃度と水安定同位体比の分析のために、降雪試料のサンプリングを行った。本観測では、季節海氷域における海氷の形成、流出および極夜明け後の光エネルギーの増加による海洋中の生物生産量と硫黄化合物の放出過程の変化の把握に最適な試料を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
グリーンランド南東部にて掘削された氷床コア中のメタンスルホン酸(MSA)堆積フラックスの経年変化とその変動要因の解析を予定通りに実施した。その結果、グリーンランド南東沿岸部では、2002年以降、海氷後退の早期化により夏に硫黄化合物の放出量が増加し、大気中のMSA濃度が増加していることが明らかになった。本研究成果を海外の査読付き原著論文として発表した。また、日本地球化学会の研究大会と、International Partnership in Ice Core Science(IPICS)による氷床コア関連の国際学会にて発表した。 2022年度の冬から春にかけてグリーンランド北西沿岸部に行き、エアロゾルサンプラーのフィルター交換と水蒸気安定同位体測定装置の設置、運用を行い、約2か月分のデータを取得した。また、水安定同位体比と化学分析用の降雪の採取を行い、季節海氷域からのエアロゾルと水蒸気輸送量を知るための貴重なデータを得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のグリーンランド南東ドームアイスコア中のメタンスルホン酸(MSA)堆積フラックスの解析から、グリーンランド南東沿岸部では、2002年以降の夏に硫黄化合物の放出量が増加していることが明らかになった。今後は、NASAが提供している雲量と雲アルベドに関する全球格子データセットを使用して、グリーンランド南東沿岸部の夏の雲量と雲アルベドの経年変化を調査する。 グリーンランド北西沿岸部にて実施されたエアロゾル観測と降雪観測によって得られたMSAの解析を行う。また、水蒸気安定同位体データを用いて、空気塊の起源と輸送経路の把握を行う。衛星データと気象再解析データを用いて、空気塊の起源域における海氷況と生物生産量の調査を行い、グリーンランド北西沿岸部に輸送されるMSAの変動要因の解析を行う。
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Research Products
(4 results)