2022 Fiscal Year Annual Research Report
ハイエントロピー合金を駆使した表面反応場の精密設計と革新的触媒の開発
Project/Area Number |
22J11748
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
シン 飛龍 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | プロパン酸化脱水素 / 金属間化合物 / ハイエントロピー / カーボンニュートラル |
Outline of Annual Research Achievements |
CO2を利用したプロパン酸化脱水素によるプロピレン製造において,活性・耐久性・CO2利用効率の全てにおいて世界最高性能を更新する高性能新規触媒の開発に成功しました。 本反応では,通常のプロパン脱水素とは異なりプロパンとCO2を同時に活性化させる必要があるため,それぞれに適した元素を触媒に加える必要があります。また耐久性の向上には,副反応を抑制して炭素析出を抑えることや,CO2による炭素燃焼を促進させることも必要になります 合金の構成元素数を5以上に増やした合金は「ハイエントロピー合金」と呼ばれ,エントロピー効果や緩慢拡散効果といった効果により合金の熱的安定性が向上することが知られています。一方でこのような合金では通常各元素の配列はランダムになるため、目的の触媒反応に適した最適な配列を取るとは限りません。私たちは,構成元素をPt,Co,Ni(ニッケル),Sn(スズ),In,Ga(ガリウム)とすることで,規則構造を有するPtSn合金(金属間化合物)と同様の結晶構造を持つ「ハイエントロピー金属間化合物」が形成されることを見出しました。この材料は,PtSn合金のPtサイトをCoおよびNiが,SnサイトをInおよびGaがそれぞれ部分的に置換された構造,すなわち(PtCoNi)(SnInGa)であらわされる構造をとっているため,全ての元素が自身以外の元素と高い確率で隣接し、多元素化による促進効果を最大化できる可能性があります。そこで,合金をナノ粒子としてCeO2(酸化セリウム)担体上に分散担持させた触媒「(PtCoNi)(SnInGa)/CeO2」を設計・合成し,これをCO2によるプロパン酸化脱水素に適用しました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、難度の高いCO2 によるアルカン酸化反応を対象反応として、本反応に有効な新規多元素合金触媒を開発することを目的とする。触媒材料としては5 種類以上の金属元素からなる合金材料「ハイエントロピー合金」に着目し、これまでに蓄積されてきた独自の触媒設計指針に基づき、元素選択や金属組成を適切に決定し高性能な触媒系を構築することを目指してます。 今回開発した触媒は従来触媒と比較して極めて高い性能を示す点が特徴であり,選択性や耐久性が世界最高であるだけでなく,プロピレン生成に対する触媒活性は従来の最高値の5倍という極めて高い値を示すことが特徴です。また従来触媒ではCO2の活性化能が不十分なため,プロパンに対し過剰量のCO2を加える必要がありましたが,本触媒ではプロパンとCO2を1:1の比率で反応させても両者が十分に反応するため,CO2の利用効率が極めて高い(世界最高)ことも特筆すべき成果です。 また,本触媒は従来型の簡便な手法(共含侵法)で調製することが可能であり,従来触媒と同程度のコストで製造できます。 従来の触媒をはるかに凌ぐ優れた触媒性能により,プロピレンの高効率製造とCO2の有効利用を兼ね備えた新しいプロパン脱水素工業プロセスの開発が期待されます。本反応は炭素資源の有効活用とCO2削減という2つの側面を併せ持つため,カーボンニュートラルの実現に向けた技術革新に大きく貢献可能な技術であるといえます。さらに本技術は既に国内特許出願済みであり,実用化に向けた展開を視野に今後も研究を継続する予定です。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、より良い産業用途のために、触媒構造の改良と最適化を進め、耐久性や再生性能のさらなる向上を目指します。長時間反応での性能評価が本研究の律速となるため、反応器の増設を行い効率を上げます。 放射光施設(SPring-8)でのin-situ放射光実験(XAFS、Synchrotron XRD)を基軸とし、さらに種々のキャラクタリゼーション(HAADF-STEM、XPS、IR等)を行うことで調製した触媒の構造や表面反応場の解析を行います。 一方、企業との共同研究では、当社の触媒を実際の反応条件と組み合わせることで、問題点を洗い出し、さらなる調整を進めています。 また,本研究により確立された多元素合金とCeO2担体の協働効果に基づく触媒設計はプロパンだけでなくエタンやイソブタンなど,その他の低級アルカンの酸化脱水素やメタンの有効利用などにも応用できる可能性が高いと考えられます。加えてその他の合金系や反応系への展開も期待されます。そのため,石油化学工業の発展や脱炭素社会の推進に大きく寄与するとともに,触媒・材料開発の面でも幅広い波及効果を及ぼすことが期待されます。そこで、様々な反応系を同時進行できるよう、反応器をさらに増設します。本研究は化学における重要なテーマであり、産業界や行政からの注目度も高いです。世界に対して積極的に情報発信していくため、国内学会での発表に加え、国際学会での口頭発表を複数回行います。
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