2022 Fiscal Year Annual Research Report
触媒的脂肪酸誘導体の遠隔炭素ー水素結合ホウ素化反応
Project/Area Number |
22J20177
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 美優 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 協働触媒 / 金触媒 / 求核付加反応 / ラクトン合成 / N-ヘテロ環状カルベン |
Outline of Annual Research Achievements |
優れた触媒の開発は、従来達成されていなかった分子変換を可能にし、新たな化学空間を切り拓くことができるため医薬品開発や新素材の開発の観点から重要である。とりわけ、自然界に存在する酵素のように優れた触媒の機能を人工的な低分子触媒へと落とし込むことができれば、天然の触媒が有する機能を超えるような新たな人工触媒の開発が期待できる。本研究では、特に酵素触媒の高活性の要因である反応場を高度に制御する触媒キャビティに着目し、キャビティ構造を導入した錯体触媒の開発を行う。そして本触媒系を用いることで、従来法では合成できなかった分子を構築することを目標とする。本研究課題では、触媒キャビティの設計によって鎖状基質折りたたみが誘起することで、従来困難であった7員環ラクトン形成が可能になると考えた。 鎖状基質環化による5,6員環ラクトンの形成は反応点同士が近接しているために容易に進行する。これに対して7員環ラクトン合成は基質反応点が遠位に存在しており一般的に困難とされている。また分子間反応が主な副反応として併発し目的物の収率が低下する問題がある。これらの課題に対して、反応点の同時活性化と近接化を行う異種二核金属錯体に対して基質分子を折りたたむようキャビティ構造を導入することで、目的の7員環ラクトンの合成を達成した。また、さらなる配位子構造の最適化によって分子間反応の抑制に成功し、高収率で目的物を得ることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異種二核金属錯体へボウル型キャビティ構造を導入し鎖状基質折りたたみを誘起することで、従来困難であった7員環ラクトン合成が進行することを見出した。主な副反応である分子間反応を抑制することで目的の7員環形成反応が高選択的に進行することが明らかとなった。また、従来は低反応性の内部アルキンを有する基質において、適用範囲に制約があったが、本触媒系では自由度の高い直鎖基質でも反応が進行する。本手法は医薬品分子や天然物などに含まれるラクトン骨格を高い原子効率で合成することができる点において優位性がある。 さらに合成化学実験と量子化学計算を組み合わせて、効率的に金錯体の形成する触媒キャビティを予測・最適化を行い、さらなる触媒分子の最適化を行っており、今後緻密な反応条件検討をさらに進めていくことで、目的物の更なる収率向上が十分に期待できる状況である。これらの成果は、計算化学によってキャビティ構造の重要性と役割を明らかとした後に、学術誌へ論文発表を行いたいと考えている。 本研究は触媒キャビティ設計指針につながる重要な知見であり、将来的に新規不斉配位子の合成と新規不斉反応開発へと研究を展開する予定である。 以上のように、本研究では低分子触媒において緻密なキャビティ設計を行うことで7員環ラクトン合成反応が進行することを見出した。また、触媒設計の知見を活かして今後不斉反応への展開が期待されることから、研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、異種二核錯体を用いた7員環ラクトンの合成反応における条件検討を行い、高収率で目的物を与える条件を明らかとする。とりわけ、本触媒系ではキャビティ構造が鎖状基質の折りたたみを誘起することで環化反応を促進可能である知見が得られているため、量子化学計算を用いて触媒分子のどの置換基が基質の折りたたみに大きな影響を与えるかを触媒と基質間に働く非共有結合性相互作用の可視化を活用しながら明らかとすることで、合理的な配位子設計に基づく構造最適化を進めていく計画である。 最適な触媒分子を決定した後に、基質適用範囲を精査することで本触媒反応の有効性を評価すると共に、触媒分子が潜在的に有している問題点についても明らかとし必要である場合は更なる触媒分子の最適化を進める。また、詳細な反応機構解析を行い反応促進のために本質的に重要な触媒構造を明らかとすることで、これらの知見を基にした触媒設計による高難度中員環形成へと研究を展開させる予定である。加えて、本異種二核錯体の触媒キャビティにキラリティーを導入し、不斉反応へと展開させる。金触媒による不斉反応では、一価金上の不斉配位子が反応場から遠位に存在するため不斉制御が一般的に困難とされている。これに対し、独自開発した金-亜鉛二核錯体の基質認識能と基質コンホメーション固定の能力を活かし、不斉誘起に適した触媒キャビティをデザインすることで高エナンチオ選択的な環化反応の開発に着手する。まずは金-亜鉛二核錯体にキラリティーを導入した新規不斉配位子の効率的な合成法を確立する。その後、合成した不斉配位子を用いて不斉反応における選択性の評価を行う。合成化学実験と量子化学計算を組み合わせて効率的に触媒錯体の設計を行い合理的に触媒開発を進める。
|
Research Products
(1 results)