2022 Fiscal Year Annual Research Report
数理モデルを用いたイネ草姿形成機構の解明と遺伝情報に基づく表現型予測への応用
Project/Area Number |
22J20329
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
徳山 芳樹 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | イネ / 野生イネ / 重力屈性 / ライブイメージング / 栽培化 / フォトグラメトリ / 分げつ角度 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の目的は、特に重力に応答して起き上がる動き(重力屈性)と、逆に倒れようとする動き(反重力屈性オフセット)に着目し、どのようにイネ野生種の放射状草姿が決定されるのかを明らかにすることである。 成果の1つ目は、クリノスタット装置による擬似無重力環境での、野生種の2ヶ月間に渡る育成に成功したことが挙げられる。擬似無重力環境と通常環境での形態の違いの解析によって、擬似無重力下では、通常環境で見られる野生種の主稈の傾きが見られない(つまり、反重力屈性オフセットも重力への応答である)ことがわかった。そこで、主稈を傾かせる遺伝子の特定を目指して、これら2環境での遺伝子発現の違いを解析中である。また、野生種と栽培種の遺伝子を部分的に交換した実験系統を用いて、既知の遺伝子の効果も調べた。その結果、分げつを傾かせるPROG1遺伝子の効果は主稈でも大きいが、一方で他の原因遺伝子が存在することもわかった。さらに、野生種で重力屈性が働かない系統を、戻し交雑とゲノム編集の2通りで作出中である。 2つ目は、複数の写真を元に植物の三次元画像を作成し、形態的な特徴を計測する技術の確立である。これにより二次元的な計測では捉えられない稈の回転運動が測定でき、数理モデリングと組み合わせて、回転運動への重力屈性の影響を明らかにできた。この成果は、本年度の学会での口頭発表を行い、英語論文を令和5年度に投稿予定である。 3つ目は、茎頂組織のタイムラプス撮影に成功したことである。筒状の葉に幾重にも囲まれたこの組織は継時的な観察が難しいと思われていたが、組織解剖と撮影の工夫によって実現できた。これにより、葉の成長のしかたを、四次元画像解析ソフトMorphoGraphXを用いて直接的に計測できるようになった。これは、葉の成長の非対称性を解析することで、植物草姿の軸決定(向きの決定)の機構を明らかにするための実験である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重力屈性の解析や、準同質遺伝子系統(遺伝子を部分的に置換した系統)の解析等、運動学的な解析に関しては予定通り進んでおり、新しい実験系統の作出に関しても完成はしていないものの予定通り実験が進んでいる。特にクリノスタット装置の利用によって長期の育成とそれに伴う運動学的・組織学的な観察ができたが、2ヶ月に渡る長期的な育成はクリノスタット解析において他に例を見ず、技術的な壁を超えられたと考えている。さらに三次元画像構築によってイネ植物個体の草姿測定ができるようになり、重力屈性の草姿形成への新しい寄与が明らかにできたことは、予定していた以上の発見であった。 また、当初は令和5年度にJohn Innes CentreのR. S. Smith博士の研究室に留学して、植物組織の顕微鏡観察と画像解析、数理モデリングを学ぶ予定であったが、令和4年度に予定より早く実現できた。さらに、イネ組織のタイムラプス観察(ライブイメージング)は技術的に困難だと思われていたが、実験系を確立できたことで、当初の予定よりも直接的な成長の解析が可能になった。このことは期待以上の成果であったと言える。 ただ、対外的な研究成果の発表に関しては、留学の前倒し等の理由から、予定していたよりも学会への参加ができなかった。 以上から、期待以上の成果が出た実験と予定より少ない発表機会を考慮して、概ね計画通りの進捗であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画として、蛍光タンパク質マーカーを組み込んだ遺伝子組換え体などを用いて、組織内での空間的な遺伝子発現の分布の観察を行い、葉の形が成長前にどのように決定されているのかを調べる。それに加えて、令和4年度にJohn Innes Centreで行ったイネ茎頂組織のライブイメージング(タイムラプス観察)の手法を改良し、日本でも安定してライブイメージングができるような実験系を構築し、より広範囲な成長段階での葉の成長(生長率や成長方向)を解析する。さらに、遺伝子組換えにより蛍光を発するイネ系統を使って、細胞の由来を調べたり細胞分裂の方向を調べたりすることができる「クローン解析」も行い、成長に関するデータを補足する。そして、それらの実験により得た器官の形の決定や成長パターンの情報を組み込んだ数理モデルを作り、どのようにしてイネの葉の非対称性が生まれ維持されているのかを明らかにする予定である。 また、野生イネに部分的に栽培イネの遺伝子を導入した系統とクリノスタット解析を組み合わせることによって、既知の遺伝子(特に分げつ角度を司るPROG1遺伝子)の効果への重力の影響を解析する予定である。現在、クリノスタット解析と網羅的な遺伝子発現の解析を組み合わせた実験を行っているが、その結果関わりのありそうな遺伝子が発現する部位を調べるために、組織の切片観察と組み合わせた「in situハイブリダイゼーション」も続けて行う予定である。 現在作出中である「重力屈性を失ったイネ野生種」は、これを用いることで、これまで私たちが数理モデルや操作実験を通して明らかにしてきた重力屈性の草姿への影響をより詳細に調べ、これまで以上にその強固な証拠を提示することを目指している。
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