2023 Fiscal Year Research-status Report
生体内リプログラミング技術を応用した網膜色素変性症の新規治療法確立
Project/Area Number |
22KJ0150
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
遠藤 由佳 岩手大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | ダイレクトリプログラミング / 遺伝子治療 / 再生医療 / 網膜色素変性症 / ミュラー細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイレクトリプログラミングは、最終分化した細胞を目的の細胞に運命転換する技術であり、生体中でも目的の細胞を誘導できるため、再生医療への応用が期待されている。本研究課題では、ポリシストロニックベクターを用いて視細胞分化を制御する転写因子群を導入し、低分子化合物や液性因子により細胞内シグナルを調節することで、網膜ミュラー細胞から光応答能を持つ成熟視細胞を高効率で誘導する手法の構築、そして、生体中で視細胞を誘導し、視細胞変性により低下した視機能を回復する低侵襲性の治療法の構築を目指す。 令和5年度は前年度に引き続き、視細胞へのリプログラミング効率向上を試みた。具体的には、視細胞分化を誘導する4種類の転写因子(CRX、NEUROD1、RAX、OTX2、以下4因子)を安定発現するミュラー細胞を視細胞方向へ分化誘導するため、視細胞分化に寄与する低分子化合物および液性因子の組み合わせを検討し、遺伝子発現解析を行った。4因子を安定発現するミュラー細胞を分化誘導培地中で培養したところ、分化誘導培地添加から4週間で桿体視細胞前駆細胞特異的遺伝子NR2E3、分化誘導培地添加から6週間で桿体視細胞特異的遺伝子RCVRNの発現が誘導された。げっ歯類の桿体視細胞の発生過程において、NR2E3とRCVRNはいずれも出生直後から発現が上昇するが、上記の結果より、本課題で構築したモデルにおいて、NR2E3の方がRCVRNよりも早期に発現が確認され、視細胞分化における遺伝子発現の過程を詳細に追跡できる可能性が示唆された。しかし本モデルは、生体環境の模倣が不十分であり、視細胞の発生過程追跡のためには、より生体に近い培養環境の構築が必要である。また、光応答に必須の光伝達関連遺伝子の発現は確認できなかったことから、作製した誘導視細胞は、視細胞方向への分化は進んでいる一方、未成熟な状態に留まっている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、令和4年度に引き続き、in vitroリプログラミングによる成熟視細胞の誘導を試みた。令和4年度に作製した、視細胞特異的プロモーターの下流に蛍光タンパク質をコードする遺伝子および、視細胞分化を誘導する4種類の転写因子(CRX、NEUROD1、RAX、OTX2)を安定発現するラットミュラー細胞株(rMC-1)を作製し、分化誘導条件を網羅的に検討した。一部の分化誘導培地中で、桿体視細胞前駆細胞特異的遺伝子NR2E3および桿体細胞特異的遺伝子RCVRNの発現が確認され、ミュラー細胞から視細胞方向へ分化していることが確認された。また、タイムコースを取り、分化誘導培地中で最大6週間培養を行ったところ、分化誘導培地中で培養した4因子安定発現株において、RCVRNよりもNR2E3の方が早期に発現が見られたことから、本課題において作製したミュラー細胞株を用いた実験系を用いることで、視細胞分化における遺伝子発現の過程をより詳細に追跡できる可能性が示唆された。 しかし、誘導した細胞において光伝達関連遺伝子の発現を確認することができなかったため、これらの細胞はまだ成熟な視細胞への分化に至っていないと考えられる。光応答能を持つ成熟視細胞への分化は達成できなかったものの、桿体視細胞方向への分化が確認されたためこの評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度の研究では、令和4年度に作製した視細胞特異的レポーター遺伝子および4因子を安定発現するラットミュラー細胞株を特定の培養条件下で培養し、桿体視細胞前駆細胞特異的遺伝子NR2E3および桿体視細胞特異的遺伝子RCVRNの発現を誘導することに成功した。令和6年度は上記の条件で培養した細胞を、光受容能を有する成熟視細胞に分化させることを目指す。具体的には、網膜発生期のRNA-seqデータを活用して視細胞の発生過程で発現変動が見られる転写因子およびシグナル分子を同定し、再度分化誘導条件を検討する。また、in vivoでのリプログラミングに向け、生体中のミュラー細胞に効率的にベクターおよび低分子化合物を送達するための投与経路・投与量を検討する。in vitroリプログラミング実験の知見を基に、ラット網膜にベクター及び視細胞分化を促進する低分子化合物を投与することで、眼内での視細胞の作製を試みた後、経時的に治療効果を評価する。具体的には、網膜電図検査(光を感じた際に網膜から発生する電位の変化を非侵襲的に測定する手法)による電気生理学的評価およびオプトモーター反応(特定の視覚刺激を注視し追従する本能行動)を利用した行動学的評価により、ミュラー細胞から誘導した視細胞により受容された光情報が脳に伝達されるか総合的に評価する。上記試験の終了後、in vivoリプログラミングによりミュラー細胞から誘導した視細胞の局在を調べ、二次ニューロンとの間にシナプスの形成が見られるか評価を行うため、ラットの眼球を摘出し、免疫組織化学染色を行う。
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Research Products
(1 results)