2021 Fiscal Year Annual Research Report
分配的正義をいかに実現するか:大規模集団における社会的合意形成の原理解明
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21J00403
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上島 淳史 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 資源分配 / 意思決定 / 自然言語処理 / 職業 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、社会的に貴重な資源の一つである感染症に対するワクチンの分配に関する人々の判断を計測するオンライン実験を実施し、その成果を査読付きの国際会議論文として発表した(Ueshima & Takikawa, 2021)。これまでの研究で、資源分配に関する判断に影響する基準として、最不遇への関心、分配の平等性、社会的効率性など、様々な要素が挙げられていた。しかしながら、人々の実際の分配判断には、「誰に対する資源の分配か」などの実社会のコンテクストが影響する。当該論文では、特に資源分配の受け手の職業を重要なコンテクストの一例として取りあげることで、社会的分配の意思決定に他者の職業というコンテクストが与える影響をオンライン実験の手法により検討した。より具体的な実験方法としては、132種類の多様な職業に対する人々の意味づけや知識表現を定量化するために、大規模コーパスから学習された職業の意味ベクトル表現を用いた。各職業の意味ベクトル表現は、その職業の意味空間上での位置づけを示している。実験の結果、大規模コーパスを用いた職業の定量化は、職業の社会的重要性などを用いた他の定量化手法よりも人々の分配判断をよりよく予測できる可能性が明らかになった。これまでは他者の職業のような日常的な判断対象をコンテクストとした人々の分配判断の予測を扱うことは困難であったが、実社会コーパスを用いて職業を定量化することで人々の分配判断をモデル化できることを示した点に当該論文の貢献があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は研究員がこれまで取り組んできた社会的分配の実験パラダイムに、計算社会科学の方法論を取り入れた新たな実験を実施することができた。これまでの実験では、職業のような実社会的なコンテクストに対して、人々がどのような意味づけを行うのかを定量化することは困難であったが、自然言語処理の技術を実験と組み合わせることで、この課題を解決する取り組みを開始することができた。新たな方法論を実験と組み合わせるだけでなく、その実験結果を査読付き国際会議論文として出版することもできた。 これらの実験実施と論文発表に加えて、今年度後半から次年度にかけて上記の実験を改善した2つ目のオンライン実験を実施し解析を進めている。この新たな実験では、さらに多様な分配選好を計測するために、扱う職業の数を500種類以上に増加させ、分配の選択肢を13000種類以上設け、約3000人の実験参加者を募集した。このようなより多様なコンテクストで得られた分配の意思決定のデータを機械学習の手法を用いて分析することで、人々の多様な分配判断の基準を明らかにすることを進めている。 これらと同時並行して、一連の研究成果を日本心理学会第85回大会、数理社会学会第71回大会、 The 14th Biennial Conference of the Asian Association of Social Psychologyなどの複数の国際・国内学会において報告した。 以上の理由から研究がおおむね順調に進展したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、年度後半から実施した大規模オンライン実験の解析を進める。現在実施している機械学習の手法を用いた解析から、分配の意思決定がどのような場合にコンテクストから影響を受けやすいかが明らかになりつつある。しかしながら、現在のデータはコンテクストを操作して得られたデータではない。それゆえ、今後はこの解析の結果を踏まえコンテクストを操作することで分配の意思決定に介入する追加実験を検討している。この追加実験は事前登録(プレレジストレーション)を行ったうえで実施する予定である。
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