2022 Fiscal Year Annual Research Report
分配的正義をいかに実現するか:大規模集団における社会的合意形成の原理解明
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21J00403
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
上島 淳史 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 社会心理学 / 分配 / 実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の前半は、昨年度に収集した資源分配に関する大規模オンライン実験のデータを分析した。これまでの資源分配の意思決定に関する研究が扱ってきた設問数の数百倍の数の分配設問を取り入れると同時に、分配の現実性を向上させるために分配の受け手の職業をコンテクストに踏まえた実験のデータを、機械学習手法を活用して分析することで、新たな分配パターンを捉えることを試みた。
年度の前半に行なった以上の分析から、分配の意思決定がどのような場合にコンテクストから影響を受けやすいかを明らかにした。その結果をもとに、コンテクストを操作することで人々の分配行動にどのような変化が表れるかを明らかにするための実験を事前登録の上で実施した。年度の後半にかけて、これらの大規模な探索的実験と事前登録を行なった確証的実験の2つの実験から構成される論文を執筆し、社会心理学系のジャーナルに投稿した。
研究課題の更なる進捗を目指し2022年8月より現在までYale大学の社会学部に研究滞在し、集団実験の技術を習得している。これまでの研究では、個人の意思決定に顕れる人々の多様な分配選好に注目してきた。ネットワーク集団実験の技術を習得することによって、ネットワーク上に配置された人々が集団レベルでどのような分配選好を生成するかを明らかにできる可能性がある。技術習得のために2000人近い人々を参加対象としたネットワーク集団実験を計画しており、順調な進捗を得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度に計画した方策に沿って、大規模実験のデータ分析から得た洞察をもとに、事前登録を行なった実験を実施することができた。心理学研究では、実験において使用される設問(質問文や選択肢)の種類が比較的少数であることから生じる問題が従来より指摘されている。例えば、実験に参加する人々が回答する設問の種類が少数に限られている場合には、その設問でのみ観察される特定の効果が存在するとしてもそれを捉えることはできない。本研究では、まず大規模な探索的実験により、従来の数百倍の数の分配に関する設問を設けることで、そのような問題に配慮した研究を行なった。そして、このように多くの設問を用いて人々の分配決定がコンテクストから受ける影響を明らかにした上で、特定の設問に注目した確証的実験を行った。 上記の分析と実験を実施しつつ、海外渡航を行い、研究をさらに発展させるためのネットワーク集団実験の技術習得を進めることができた。 以上の理由からおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在研究滞在している海外渡航先大学において実験を実施する。これは2000人近い人々を参加対象としたネットワーク上での集団実験となる。実験終了後、年度後半にかけて、ネットワーク上での個々人の意思決定の分析について共同研究者との議論を行いながら進め、論文として投稿する。 同時並行して、すでに実施した大規模実験のデータ解析について、データに含まれるノイズからの影響を受けにくいより近年の手法を用いた探索的解析を実施する。有効な知見が得られた場合には事前登録の上で追加的な確証実験を行う。 その間に昨年度に論文誌に投稿し現在査読結果を得た論文について、改稿を行い再投稿する。
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[Book] 数理社会学事典2022
Author(s)
数理社会学会 数理社会学事典刊行委員会
Total Pages
782
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30665-9