2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J20154
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
坂尾 珠和 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 実験核物理 / ストレンジネス核物理 / 散乱微分断面積 / スピン観測量 / ハイペロン |
Outline of Annual Research Achievements |
【概要】我々は物質世界における原子核を形成する力、「核力」を研究している。核力は核子(陽子または中性子)間に働く力で、一般的には、近距離(1 fm)で強い斥力、遠距離では引力となり、両者が均衡を保つことで原子核は存在している。核力の系統的な研究は、物質の起源の理解に繋がりうるとして重要視されている。 【具体的内容】実際の研究では、バリオン(クォーク3つで構成される複合粒子)間相互作用を調べる。実験的には、散乱実験でYN2体相互作用を決定し、その情報とハイパー核実験で測定される核内での多体力 (YNNなど)を比較していく。遠距離領域における引力は、豊富な核子-核子(NN)散乱実験データから構築された中間子交換モデル(OBE model)でよく理解されている。しかし,高エネルギーでの近距離領域に現れる斥力芯の取り扱いはモデル依存性が強く、更なる研究が求められている。この領域では核子同士が重なるため、核子の構成要素であるクォーク・グルーオン間相互作用が斥力芯の起源に関与していると考えられている。 【重要性】クォーク間相互作用を含むバリオン-バリオン (BB) 相互作用を研究する場合,u, dクォークのみのSU(2)空間だけでなく、sクォークを含めたSU(3)f空間へ拡張する必要がある。 さらに、原子核の全体像を理解するのに必須であるハイペロン-核子-核子 (YNN) 多体力の決定には、精密なYN2体力の情報が不可欠である。つまり、YN・YY相互作用を含めた2体のBB相互作用を調べる必要がある。 【当研究の意義】当研究では、YN相互作用の中でもΛpチャンネルを取り扱う。当チャンネルは過去の散乱実験データが乏しい上、微分断面積・スピン観測量測定から理論モデルへ強い制限を加えうるため重要である。具体的な研究内容は、次世代Λp散乱実験に向けた基礎研究として、Λp散乱微分断面積およびΛスピン観測量測定の実現可能性見積を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【概要】当研究では、次世代Λp散乱実験に向けた基礎研究として、Λp散乱微分断面積およびΛスピン観測量測定の実現可能性の見積を行っている。解析するデータは、J-PARCでのΣp散乱実験(J-PARC E40)で取得したbyproductデータである。当データにはπ-p→K0Λ反応およびΛp散乱事象が含まれている。 【実績1(前期)】J-PARC E40 byproductデータ解析において、(1) π-p→K0Λ反応で生成されるΛビーム同定手法、(2) Λp散乱事象同定手法、の構築を完了した。 将来実験では、ビーム位置検出器と円筒型標的周りに設置するファイバー飛跡検出器を刷新する予定であり、K0同定精度の向上が期待される。さらに、高統計のΛビームでΛp散乱事象を測定するため、微分断面積を精度よく測定可能と考えられる。 【実績2(後期)】同データを用いてΛpスピン観測量測定が可能か検証し、(1) Λビームの偏極度を過去実験より高精度で測定可能であること、(2) Λが約100%の高い偏極度を持つこと、を確認した。 実験的にΛpスピン観測量測定を行うことで、今日複数存在するYN相互作用モデルに制限をかけられると我々は考えている。主要なYN相互作用モデルには、(1) Extended-Soft Core モデル (ESC16)、(2) Quark-cluster モデル (QCM)、(3) Chiral EFTがある(各モデルの詳細は割愛)。 豊富なNN散乱実験データと比べYN散乱実験データは未だ不足しており、前掲のモデル間では、sクォークを導入したSUf(3)空間でのスピン観測量に強いモデル依存性が現れる。したがって、我々はΛpスピン観測量測定によってこれらのモデルに精密な制約を与え、核力の理解へ繋がると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
J-PARC E40 byproductデータを引き続き解析し、Λビーム偏極度測定を行う。このとき、Λビーム偏極度はK0の重心系での角度毎に計算し、過去実験の結果と比較できるようにする。 次年度では、より精密にΛビーム偏極度を測定し、K0やΛビームスピン軸の角度によって偏極度がどのように変化するか調べる。この結果と検出効率を基に、最終的な測定結果がどのようになりうるのか評価する。 得られた結果は随時国内外の研究会・学会で報告する。
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Research Products
(7 results)