2021 Fiscal Year Annual Research Report
3次元微細構造観察と数値解析による海洋リソスフィア含水化の時空間発展の解明
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21J20281
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉田 一貴 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 蛇紋岩化反応 / オマーンオフィオライト / 岩石ー水相互作用 / 沈み込み帯 / 海洋リソスフェア |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の目的は,天然試料の観察および分析からオマーンオフィオライトにおける蛇紋岩化ステージを明らかにすること,および,蛇紋岩化の進行に重要な流体の移動経路となる空隙構造の直接観察を行うことであった.まず,地殻ーマントル境界の岩石(79試料)を粉末状にし,含水化の深度プロファイルを調べることで,地殻ーマントル境界の大まかな含水化(蛇紋岩化)の傾向を調べた.その後,いくつかの試料に対して薄片を作成し,EPMAおよびラマン分後法を用いたより詳細な分析を行った.その結果,比較的低温の蛇紋岩化の後に,比較的高温で形成されたと考えられるアンチゴライトの脈が観察された.また,このアンチゴライト脈の周りにはブルーサイトに富む反応帯が観察された.この反応帯を形成するのに必要な時間および流れた流体の流速を算出したところ,この反応帯は0.1-1年という短時間で形成され,その間の流速は0.01-0.1 cm/s程度であった可能性が示唆された.これらの結果から,オマーンオフィオライトの岩石は低温の蛇紋岩化の後に,短時間・急速な流体流入を経験していることが示唆された.さらに,算出された流速は,沈み込み帯において観測されている地震の震源の移動速度と類似していることから,沈み込み帯における地震活動と流体移動の関連が示唆された. また,蛇紋岩化の進行には蛇紋石中の微細な空隙が重要な役割を果たしていると考えられることから,ユトレヒト大学でX線CT, FIB-SEM, およびTEMを用いた蛇紋岩の微細構造観察を行った.その結果,数百nmスケールの微細な空隙が観察された.これらの空隙は,蛇紋岩化の進行において流体の移動経路として重要な役割を担っていた可能性がある.さらに,今後使用予定である数値シミュレーションの一部改良も行った.これらの成果の一部はすでに学会で発表しており,現在論文を執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はまず,熱重量測定装置を用いた岩石試料中の含水鉱物の定量分析を行うことで,掘削試料の深度方向の含水化の大まかな傾向を調べた.また,いくつかの試料に対して薄片を作成し,EPMA, ラマン分光法をもちいた鉱物の同定や観察を行った.これらの天然試料の分析は順調に進められ,オマーンオフィオライトにおける蛇紋岩化ステージに関する考察を行う上で十分な結果が得られた. また,海外連携先のユトレヒト大学でのX線CT, FIB-SEM, およびTEMを用いた分析を行った.蛇紋岩に含まれる空隙は,当初予想されていたよりも小さく,X線CTの解像度(最小ボクセルサイズ 500 nm)では空隙を観察することはできなかった.そこで,さらに高解像度の観察が可能なFIB-SEMおよびTEMを用いた分析を行った.その結果,数nm-数百nmスケールの空隙を確認することができた.これらのことから,2021年度の目的は十分に達成されたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,蛇紋岩化における流体移動速度や移動経路を明らかにすることを目標とする.2021年度のX線CT,FIB-SEM,およびTEMを用いた分析では,蛇紋岩中に数nmから数百nmの大きさの空隙が存在することが示された.実際の蛇紋岩化においても,このような微細な空隙を流体が移動することで蛇紋岩化が進行することが予想される.しかし,空隙の連続性や実際にどのようなタイムスケールでこれらの空隙を流体が移動していくのかは不明のままである.したがって,蛇紋岩化中の流体移動経路や速度を明らかにするさらなる実験および観察が必要であると考えている.そこで,2022年度はトレーサー試験を行うことで,蛇紋岩化における流体の移動経路や移動速度に関する議論を行う.トレーサー試験では,X線吸収量の高い物質を試料にしみこませることで,その物質が通った移動経路や速度を調べる. また,離散要素法による数値シミュレーションによる岩石組織パターンの再現と天然試料との比較によって,実際の天然試料における反応速度や流体移動速度に関する情報抽出を行う.先行研究では,流体移動速度および反応速度の兼ね合いによって蛇紋岩化の組織パターンが決定されることが示唆されている.したがって,X線CTによるトレーサー試験によって流体移動速度を推測することができれば,天然試料の組織と数値シミュレーションにより再現された組織パターンを比較することで,反応速度に関する情報を抽出できると考えている.得られた成果は適宜学会発表する予定である.
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Research Products
(9 results)