2022 Fiscal Year Annual Research Report
高速熱特性計測に基づく磁性金属多層膜の熱・スピン輸送機構の学理深化
Project/Area Number |
22J00502
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山崎 匠 東北大学, 金属材料研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | スピンカロリトロニクス / スピントロニクス / 熱スピン効果 / サーモリフレクタンス / 反強磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,スピントロニクス分野において中心的な役割を担ってきた磁性金属多層膜の熱制御応用に向け,熱工学的な観点から機能拡張を目指す.多層膜中の熱やスピンの輸送キャリアの特徴的な長さスケール(特性長)の評価を通して,磁性金属多層膜に発現するスピンカロリトロニクス現象である,磁性体の磁化配置の変化に伴う熱抵抗の変調効果(巨大磁気熱抵抗効果)やスピン流-熱流変換効果(熱スピン効果)のメカニズムを明らかにし,さらに材料工学的なアプローチにより各効果の性能向上指針を見出す. 本年度は,キャリアの特性長を同定するための鍵となる反強磁性絶縁体NiOの高品位化およびスピン流透過特性の評価に注力した.シード層・Arガス圧・成膜温度の3種の成膜条件を最適化し,スピン流生成用Ptおよびスピン流透過用NiOの (001),(111) 高配向膜をMgO(001),MgO(111)基板上にそれぞれエピタキシャル成長させることに成功した.続いて,Pt/NiO/CoFeB積層膜に生じる熱スピン効果をスピン流プローブとして,NiOのスピン流透過特性を調査した.熱スピン効果による温度変化測定には光学的測温法であるロックインサーモリフレクタンス法を用いた.その結果,スピン流透過特性が結晶のクオリティ(エピタキシャル膜か多結晶膜か)によって変化することを見出した.加えて,エピタキシャル膜においてスピン流透過のNiO膜厚依存性は振動的な振る舞いを示し,さらに振動周期が結晶方位に依存するという,非自明な挙動を示すことがわかった. 上記と並行して,キャリアの特性長の同定に向け,ロックインサーモリフレクタンス法を高周波数領域に拡張するための高周波回路の設計・製作や,本手法を応用した薄膜熱伝導率計測手法の基盤構築を実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
NiOの高品位化により磁性金属多層膜への高効率なスピン流注入が可能となり,キャリアの特性長を同定するための基盤が整った.さらに本研究で得られたエピタキシャルNiO薄膜のスピン流透過特性は,多結晶NiO薄膜を中心に行われてきた先行研究では確認されていない挙動であり,計画立案時には予想しなかった成果である.NiOは典型的な反強磁性絶縁体であり,そのスピン流透過特性が近年精力的に研究されていることから,本知見は反強磁性スピントロニクス分野にとっても有用な成果であると位置づけられる.さらに,令和5年度に実施予定だった薄膜熱伝導率の計測基盤構築を前倒しで実施できており,当初の計画以上に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
外部磁場により磁化配置を制御できる人工反強磁性体を,前年度に作製した高品位なNiO薄膜の上にエピタキシャル成長させる条件を確立する.具体的な材料としてCo/Ru多層膜を用い,各層膜厚に対する構造評価・磁気特性評価を系統的に行う.また,ロックインサーモリフレクタンス法について,高い温度分解能を維持したまま測定周波数領域を拡張し,典型的な強磁性金属薄膜や磁性金属多層膜のキャリア特性長の同定を目指す.
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