2022 Fiscal Year Annual Research Report
ショウジョウバエの器官運命の転換における新規シグナル伝達経路の解明
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22J10423
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
根本 和也 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 細胞運命 / リプログラミング / 成虫原基 / インスリン様ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
iPS細胞の発見などから、体細胞を異なる細胞に転換させて臓器や器官を人工的に作製する再生医療が期待されている。しかし、その実現には細胞運命の転換だけでなく、運命転換した細胞集団を適切に制御して器官の形成に導く必要があるが、その分子機構は未だ明らかでない。そこで本研究では、運命転換を経て実際に異なる器官が形成される、ショウジョウバエの器官改変現象に注目している。これまでに我々は、インスリン様ホルモンの一種であるDilp8が器官改変に関わることを見いだしており、器官改変におけるDilp8の機能解析を行っている。 本年度ではまず、器官改変時にdilp8を発現する細胞集団が、成虫原基の損傷再生時に生じる再生芽細胞に類似する特徴を持つことを見いだした。再生芽細胞は、再生のために本来の細胞運命を一時的に失った細胞であり、再生完了時に再度分化する。このことは、dilp8発現細胞が再生芽細胞のように、異なる細胞運命に転換しつつある遷移状態にあることを強く示唆している。 また、新たな遺伝子発現誘導システムであるQシステムを用いて、器官改変を誘導する実験系を確立した。これにより、Dilp8を受容できない細胞を組織の一部に導入するクローン実験を行う目処がついた。 加えて、再生芽細胞特異的な遺伝子発現プロファイルを解析した公共のsingle cell RNA-seqデータを用いて、データ解析手法の検討にも着手している。その過程では、Dilp8を発現する再生芽細胞では、Dilp8の新規受容体候補であるDrlの発現が低下する傾向にあることを見いだした。 以上の結果より、細胞運命が転換しつつある遷移状態の細胞からDilp8が放出され、周囲の他の細胞に作用しているモデルを提案している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の解析から、dilp8発現細胞の興味深い特徴が明らかとなった。具体的には、器官改変時に生じるdilp8発現細胞は、再生芽細胞特異的なマーカーとして同定されたMmp1を発現していることを見いだした。この結果は、器官改変時に組織細胞の一部が再生芽に似た細胞集団へ変化しており、その細胞集団から特異的にDilp8が分泌されていることを示唆するものである。 また、新たな遺伝子発現誘導システムであるQシステムを用いた器官改変誘導にも成功した。これを既存のGAL4/UASシステムと組み合わせることで、細胞ごとに異なる遺伝子発現操作を行える実験系を確立した。現在は、複眼原基組織の一部でDrl欠損細胞を誘導する細胞クローン実験にも着手している。 さらに、来年度のsingle cell RNA-seq(scRNA-seq)解析実施に向けて、再生芽細胞特異的な遺伝子発現プロファイルを解析した公共のscRNA-seqデータを用いて、解析手法の検討も行った。この解析では、損傷再生時にDilp8を発現する再生芽細胞で、Dilp8の新規受容体候補であるDrlの発現が低下する傾向にあることを確認した。この結果は、dilp8発現細胞ではDilp8を受容しにくい細胞であることを示唆している。 以上のように、本研究は器官改変現象におけるDilp8の作用機序を見いだしつつある。そのため、概ね順調に進展している、と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、①dilp8発現細胞の特徴のさらなる解析、②器官改変におけるDilp8の機能解明、の2つを行う。①では、dilp8発現細胞の遺伝子発現を特異的に解析するsingle cell RNA-seq解析に挑戦し、再生芽細胞様の特徴を示すか検討を進める。②では、本年度に確立したQシステムによる器官改変系を用いて細胞クローン実験を行い、器官改変におけるDilp8の機能を明らかにしていく。これらの実験を通じて、器官改変におけるDilp8の機能や作用機序に迫る。
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