2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J11892
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須藤 健太 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | 電気磁気効果 / 非相反輸送現象 / 反強磁性スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電気抵抗が電流反転に対し異なる値を示す非相反抵抗について、どのような機構により非相反抵抗の強度(電流反転に対する電気抵抗の非等価さの度合い)が大きくなるかを明らかにし、非相反輸送現象の学理構築に貢献することである。 初年度は主に、局所的に空間反転対称性を破る磁性金属における非相反抵抗の測定を行った。これまでの非相反抵抗の研究対象物質では、結晶構造がグローバルに空間反転対称性を破っており、さらに外部磁場を印加することで時間反転対称性が破れ非相反抵抗が生じる。一方、ジグザグ構造のような原子が反転中心にない、局所的に空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ物質では、ジグザグ鎖上の局在スピンが反強磁性的に秩序することでグローバルな空間反転対称性と時間反転対称性が破れ、外部磁場を印加せずとも非相反抵抗が生じることが予想できる。しかし、これまで外部磁場印加なしで非相反抵抗を観測した例は無かった。このような新しい機構による非相反抵抗を観測できれば、より広い視野から非相反抵抗を議論し理解が深まると考えられる。 さらに、これまでは主に非磁性物質における非相反抵抗の研究が中心であった。本研究を行うことで、磁性原子が非相反抵抗の強度に与える影響や、磁性と非相反抵抗の関係性について議論できる。また、当初の研究課題であった磁性不純物散乱により非相反抵抗が増強される可能性についても、本研究により解決の糸口を得られると考えている。 上述の条件を満たす物質としてジグザグ構造を有する反強磁性金属NdRu2Al10に着目し、実験を行った。FIBで微細加工したデバイスを用い非相反抵抗の温度依存性を測定した結果、0磁場にもかかわらずネール温度以下の反強磁性秩序状態でNdRu2Al10は非相反抵抗を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジグザグ構造を有する反強磁性金属NdRu2Al10の非相反抵抗の測定を行った。測定ではFIBで微細加工したデバイスを使用した。その結果0磁場にもかかわらずTN以下で非相反抵抗が生じるという実験結果を得た。また、非相反信号の磁場依存性、磁場異方性も測定した。その結果から非相反抵抗の起源が、反強磁性秩序状態によるグローバルな空間反転対称性の破れと時間反転対称性の破れであると結論付けた。さらに、電流方向に沿って細かい間隔で連続的且つ系統的に非相反抵抗を測定し、非相反信号の符号の変化を観測した。そして、非相反信号の符号変化が反強磁性ドメインの分布の段階的な変化から説明できることを提案した。 これらの測定を複数のデバイスを用いて行い、実験結果の再現性を確認した。現在、上述の結果をまとめたNdRu2Al10の非相反抵抗の論文を執筆中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまでに、NdRu2Al10がネール温度以下で非相反抵抗を示すことを明らかにしている。これは従来の非相反抵抗の枠組みの中では説明できない結果である。そこで、NdRu2Al10と同様の結晶構造を持ついくつかの類似物質について非相反抵抗の測定を行い、ゼロ磁場で生じる非相反抵抗の厳密な起源の解明を目指す。 測定する物質は、CeRu2Al10、NdFe2Al10である。これらの物質はNdRu2Al10と同じ結晶構造を持つ物質である。測定結果から非相反抵抗の強度とスピン軌道相互作用の大きさとの関係などを議論する。また、共同研究者と協力し議論を論文にまとめ投稿した後、物理学会での発表も行う予定である。さらに、国際学会や国際ワークショップへの参加、発表も計画している。
|