2022 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属ダイカルコゲナイド原子層薄膜のスピン・角度分解光電子分光
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22J13724
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川上 竜平 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 角度分解光電子分光法 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / トポタクティック法 / 分子線エピタキシー法 / 原子層物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第V族遷移金属原子(M=V, Nb, Ta)および硫黄原子(S)を基軸とした原子層遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の電子状態を角度分解光電子分光法(ARPES)による決定することを目的として、分子線エピタキシー(MBE)-トポタクティック装置による高品質な原子層MS2薄膜を作製する。本年度は、MBE-トポタクティック装置の開発と原子層VSxTe2-x(0≦x≦2)および原子層NbS2薄膜の作製および物性評価を行なった。MBE-トポタクティック装置の開発では、トポタクティック反応を促進するための通電加熱装置の設計および導入を行い、またアルゴンガスやS分子熱乖離によるS置換量制御のため環境構築を行なった。さらに、ARPES装置に直接連結することで、薄膜作製と電子構造評価を同時に行えるようにした。本装置を用いて、下記に示す研究成果を得た。MBE-トポタクティックを用いて、グラフェン/SiC基板上に原子層VS2薄膜を作製し、ARPESにより明瞭なバンド分散の観測に成功した。また、ARPESにより電荷密度波(CDW)に由来したエネルギーギャップの波数依存性の観測に成功した。さらに、原子層VS2の CDW相が室温まで安定化していることを明らかにした。トポタクティック反応時における基板温度およびS蒸着レートをコントロールすることで、原子層VSxTe2-x(0≦x≦2)のS原子とTe原子の組成制御を行なった結果、原子層VTe2と原子層VS2が相分離することを明らかにした。MBE-トポタクティック法を用いて、グラフェン/SiC基板上に作製した原子層NbTe2薄膜のTe原子をS原子に置換することで原子層NbS2薄膜を作製し、ARPESによる三角プリズム型構造に由来した金属的な電子状態の観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、MBE-トポタクティック法を用いて、S原子を基軸とした原子層TMD薄膜を作製し、ARPESによるこれらの電子状態の解明を目的としている。初年度である2022年度は、MBE-トポタクティック装置の開発において、トポタクティック反応時のS雰囲気の制御システムを構築し、S置換量の精密制御を可能にした。また、MBE-トポタクティック装置を高速電子線回折/低速電子線回折装置およびARPES装置と連結することで、作製した試料の結晶・電子構造評価をその場で行い、薄膜合成にフィードバックできる環境を整備した。実際に、本装置を用いて原子層VSxTe2-x(0≦x≦2)と(2)原子層NbS2薄膜の作製に成功し、ARPESによる電子状態の直接観測することができた。特に、原子層VS2においては、本手法を用いてグランフェン/SiC基板上で単結晶原子層薄膜化に成功し、電荷密度波(CDW)に由来した特異な電子状態を観測できた。この成果はネイチャー系姉妹誌に出版準備中である。また、CDWギャップの波数依存性から高次のフェルミ面ネスティングが原子層VS2のCDW相の起源になっていることを見出した。今後、この研究を契機にして、様々な低次元物質で見られる電荷密度波の起源解明に向けた研究が加速されると期待される。また、原子層NbS2では、1H構造に由来した電子状態を観測し、低温においても金属状態を保持していることを明らかにした。以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで開発したMBE-トポタクティック装置およびARPES装置を用いて、以下の内容の研究を行う。また、第一原理計算を用いることで、理論と実験で観測された電子状態の違いを明らかにする。 (1)原子層1H-NbS2の超伝導状態の観測 : 今年度は原子層1H-NbS2が低温において金属的な電子状態を示すことを明らかにした。本年度は、極低温下での原子層NbS2の電子状態を測定し、空間反転対称性の破れに由来したイジング超伝導状態の観測を目指す。 (2)原子層TaS2の電子状態の観測 : 原子層TaS2はカルコゲン原子が三角プリズム型に配位した(1H)構造と正八面体型に配位した(1T)構造の2種類の結晶構造の合成が報告されている一方、単一ドメインをの単結晶薄膜は合成されていない。そこで、本年度はMBE法で単層TaSe2を作製し、トポタクティック法により1Hおよび1T-TaSe2単結晶原子層薄膜をそれぞれ作り分けることを目指す。また、原子層TaSe2の電子状態と比較することで超伝導・電荷密度波、モット絶縁体などの特異な電子物性の発現起源を解明する。 (3)原子層ヤヌス1H-TaSSeのトポロジカル超伝導状態の観測 : 原子層ヤヌス1H-TaSSeは鏡映対称性の破れに伴い、トポロジカル超伝導体になることが理論的に提案されている一方、合成報告はなされていない。そこで、本年度は原子層ヤヌス1H-TaSSeをMBE-トポタクティック法により作製し、ARPESにより電子状態を明らかにする。また、原子層ヤヌス1H-TaSSeにおいてトポロジカル超伝導の発現の有無について明らかにする。
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Research Products
(10 results)