2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J20227
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
竹平 航平 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 数論的力学系 / ゼータ関数 / 高さ関数 / multiplier / 高さゼータ関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は下記の研究を行った。 (1)射影直線上の力学系における、multiplierの母関数として定義されるゼータ関数の極、零点の挙動の研究:特別研究員採用前までの研究において、multiplierと呼ばれる力学系の局所的挙動を反映する不変量の母関数として定義されるゼータ関数が、ある線形写像の固有多項式を用いて表示できることを、十分一般の仮定のもとで示していた。この線形写像は、射影直線上の1次微分形式のなす層のテンソル冪のコホモロジー群に、力学系を定める写像から誘導されるものであり、特定の場合には、詳細な明示計算が可能である。そこで、今年度はそのような線形写像の明示計算を行い、ゼータ関数の極、零点に対応する固有値の挙動の研究を行ない、力学系のパラメータを増大させた場合における最大固有値の漸近挙動を明らかにした。 (2)力学系の高さゼータ関数に対する研究:数論的力学系において、Call-Silvermanによるdynamical canonical heightと呼ばれる、ある種の高さ関数が知られている。Hsia(1997)は、このdynamical canonical heightに関する一般化Dirichlet級数として定義される、力学的高さゼータ関数について、力学系が函数体上で定義され、かつ、力学系の挙動が穏やかな場合にゼータ関数の複素平面上への有理型接続や、ゼータ関数の代数性を証明した。本年度の研究では、このゼータ関数の主要項と考えられる、あるアデール上の積分で定義される関数について、Hsiaの仮定が成立しないある力学系の族を用いて明示的に計算し、解析接続を示した。また、この明示計算には、超越数論で活発に研究される、Mahlerの関数方程式を満たす部分があり、超越数論との関連性も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
特別研究員申請時において研究の主体は、射影直線上の力学系に対する不変量である、multiplierの母関数として定義されるゼータ関数のみであることを想定しており、今年度の前半の研究活動においては、そのゼータ関数及び、それに関連していると思われるゼータ関数の研究を行っていた。しかし、研究を進めるにつれて、Call-Silvermanによるdynamical canoniccal heightに関する一般化Dirichlet級数として定義されるゼータ関数の重要性が明らかになってきた。本研究の究極的な目標は、種々のゼータ関数を通じて、離散力学系と整数論の密接な関係性を明らかにすることであり、高さ関数という整数論における非常に重要な概念を用いており、かつ力学系の情報も豊富に反映していることが期待される、この種のゼータ関数も本研究の研究対象として重要であるという判断をした。以上の事情により、本年度は、特にその後半において、当初の計画を修正しつつ研究を遂行することになり、このことを反映し、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、次の二つを研究の主軸とする: (1)multiplierの母関数として定義されるゼータ関数の研究:射影直線上の力学系に対し、その局所的ふるまいを反映した不変量である、multiplierを用いたゼータ関数に対しては、特別研究員採用前までの研究で、multiplierが1の冪根になる周期点を持たないという、十分一般の仮定の下で、あるコホモロジー上の線形写像の固有多項式を用いて表示する行列式表示を証明していた。2023年度の研究においては、この行列式表示を完全に一般の場合で確立する研究を行う。その後、2024年度においては、このゼータ関数の性質から、射影直線上の力学系の性質、またはそれに関連した整数論的性質を導出する研究を行う。 (2)力学系の高さゼータ関数の研究:Call-Silvermanのdynamical canonical heightに関する一般化Dirichlet級数として定義される力学系の高さゼータ関数に関しては、Hsia(1997)による基礎体が函数体かつ力学系が穏やかなふるまいをする場合に関する結果が存在するものの、その他の状況での結果は知られていない。Hsiaの研究における仮定が成立しない場合には、昨年度の研究で、このゼータ関数の主要項と考えられる、あるアデール上の積分で定義される関数の計算を特別な場合に実行し、その解析接続と超越性が明らかになっている。そこで2023年度においては、このような計算をより一般の状況で実行するとともに、超越数論におけるMahlerの方法との関連性を明らかにする。また、2024年度においては、力学系の高さゼータ関数に関して、基礎体が代数体の場合にも同様の解析接続等の性質を明らかにする研究を行う。
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