2021 Fiscal Year Annual Research Report
2次元層状物質のコヒーレントフォノン制御下におけるキャリア輸送特性の解明
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21J20332
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
福田 拓未 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 2次元層状物質 / コヒーレントフォノン / 光誘起相転移 / 周期駆動系 / 非平衡量子多体現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,多形物質MoTe2の2H構造と1T’構造のレーザー照射に伴う破壊閾値および照射後の構造変化について,フェムト秒パルスレーザーの繰り返し周波数や波長に対する依存性を反射率変化信号によるコヒーレントフォノンの時間領域測定によって調査した。その結果,試料の発熱によりMoTe2が化学的に分解・酸化されることでTeが析出し,理論的に予言されていた多形構造間の構造相転移は単純な光励起で実現することが困難であることを明らかにした。本研究で得られた知見は,Te析出を防ぎながらMoTe2の超高速な構造相転移現象を観測するために,非常に重要な情報である。本研究成果はヨーロッパ相変化学会(E/PCOS2021)にてポスター発表,およびPhysica Status Solidi RRL誌にて論文が受理された。 また,破壊閾値強度以下で半導体2H-MoTe2の反射率変化信号を測定した結果,光励起に伴う電子正孔プラズマの生成に起因する反射率変化スペクトルの低下と,20ps以上に亘って振動し続ける長寿命コヒーレントフォノン(A1g: 5.15 THz)が観測された。興味深いことに,光励起直後のフォノン周波数成分には,A1gの整数倍とその他光学フォノンとの結合モードが観測された。観測された過渡的な結合モードの出現は,電子正孔プラズマと長寿命なコヒーレントフォノンの瞬間的な相互作用によって形成されるフォノンドレスト状態に起因していることが明らかになった。本研究で得られたコヒーレントフォノンの周期駆動系の知見は,今後行うキャリア輸送特性の研究にとって興味深い題材である。本研究成果は現在,国際学術雑誌に論文を投稿中である。 さらに,コヒーレントフォノン制御を行うためのダブルパルス光学系を構築や,時間領域のキャリア輸送特性を計測するための装置やデバイスの設計と,必要な機材の準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世界的な半導体不足によって新しく構築予定の光学系の機材(ステッピングモーター及びコントローラー等)の納期が大幅に遅れている部分はあるものの,MoTe2におけるTeの析出現象や,2H-MoTe2における長寿命コヒーレントフォノン周期駆動系の非平衡定常状態の観測など当初予期していなかった研究成果を学会発表や論文投稿及び掲載までに至ることができたため,おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として,(i)引き続き超高速光電流測定装置(UPC)の構築とデバイスの作製,(ii)超高速電子線回折測定(UED)と時間分解第二次高調波(SHG)測定による2次元層状材料の構造ダイナミクスの調査を行う。特に(i)では,顕微ポンプ・プローブ光学系の構築に際して,各部位をLabVIEWでPC制御を行うことで円滑かつ自動で時間分解データを取得するためのソフトウェアの開発も並行して行う。さらに,リソグラフィー装置を用いて配線したシリコンウェハ等基板上にTMDC薄片試料と光スイッチ素子を配置することで,UPC測定用のデバイス作製を行う。次年度では最終的に,作製した光電流デバイスから光電流を検出し,時間分解能を評価する部分まで検証したい。(ii)の結果に関して,取得したUEDとSHGのデータについて議論を深め,国内・国際学会での発表,そして英語論文として国際科学雑誌に投稿することを目標とする。
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Research Products
(8 results)