2022 Fiscal Year Annual Research Report
生存に不可欠な睡眠の役割の解明: 遺伝学と非線形光学によるアプローチ
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21J21778
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
宮崎 慎一 筑波大学, グローバル教育院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 睡眠医学 / 遺伝学 / 神経科学 / 非線形光学 / 順遺伝学的スクリーニング / カルシウムイメージング / 光遺伝学 / CARS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では遺伝学的スクリーニングと非線形光学イメージングという異なる2つの手法を用いて睡眠の機能を解明することを目的としている。2022年度の研究により、遺伝学的スクリーニングで単離した変異体の持つ遺伝子変異を数個の候補にまで絞り込んだ。単離された変異体のうち、1系統ではすでに有力な候補遺伝子が見つかっており、現在、原因遺伝子の確定のため、CRISPR/Cas9システムを利用して遺伝子変異を再現する実験で解析を行っている。また、一部の候補遺伝子については蛍光タンパク質を用いた発現解析や機能解析を進めている。またマウスでの基本的な脳波測定の方法に習熟した。このことにより、原因遺伝子が確定し次第、マウスのホモログの変異体を作成し、睡眠解析や断眠実験を行う準備ができている。 非線形光学イメージングでは、睡眠の機能に関わる可能性のある生体変化について、詳細な分光学的な解析を行った。特にCARSイメージングによって得られた多次元データを統計学的な手法で解析する方法を新たに導入し、従来は難しかった網羅的な解析を行なっている。今後は、分光学的手法によってとらえられた生体分子の変化が、どのような分子メカニズムによって生じているのかを明らかにする。 さらに並行して行っている神経科学的な手法を用いた睡眠の制御経路の研究により, 線虫において睡眠の恒常性制御を担っていると考えられる神経細胞の同定と機能解析を行い、国際誌に筆頭著者として報告した。本研究は線虫の睡眠の恒常性制御を担う神経細胞の最初の報告である。 以上のように睡眠の機能を解明しようとする研究と、睡眠の制御機構を明らかにしようとする研究の両方で進展があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究により、「眠らないにも関わらず生存期間が長い変異体」の持っている候補遺伝子の絞り込みを行った。従来の実験手法ではうまく候補遺伝子の絞り込みができなかったため、ゲノム編集による遺伝子改変技術の導入に精力的に取り組み、実際に幾つかの遺伝子変異体を作成することに成功した。現在はゲノム編集によって、スクリーニングで単離された変異体の持つ遺伝子変異を再現する実験を行っている。また、マウスにおける睡眠解析のための基本的な技術の習得にも挑み、これを習得している。総じて、こちらのテーマは当初の予定通りに進展していると言える。 非線形光学を用いたイメージングの研究については、睡眠の機能と関連する可能性のある生体内での分子変化を、分光学と統計学の手法を用いて解析した。このテーマでは新たな解析手法を導入することで計画以上の進展があったと言える。 さらに当該研究員は睡眠の制御機構についての研究も並行して進め、線虫の眠気をつかさどる可能性のある神経細胞について、その神経科学的な特性と、分子生物学的な特性を明らかにした。この研究に関しては当該研究員が筆頭著者となった論文が、国際誌に掲載された。こちらのテーマは計画以上に進展していると言える。 以上のように当該研究員の行っている3つの研究テーマはいずれも進展していると評価できる。当該年度中には筆頭論文1報、共著論文2報、国内学会での招待講演1件の発表を行った。研究成果のアウトプットにも積極的に取り組んでおり、総じて本研究課題は当初の計画以上に進呈していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝学的スクリーニングのテーマに関しては、単離した変異体の持つ原因遺伝子の同定を第一の目標として研究を継続する。昨年度に、CRISPR/Cas9による遺伝子変異体の作成技術が使用可能となったため、現在は候補遺伝子の遺伝子変異を再現する実験を進めており、今年度の早期には「眠らないにも関わらず生存期間が長い変異体」の原因遺伝子を明らかにすることを目標とする。さらに、原因遺伝子が明らかになれば、マウスホモログを変異させた変異体マウスを作成することができるため、変異体マウスの睡眠測定や断眠実験を本年度中に行うことを目指す。 非線形光学イメージングに関しては、非線形光学顕微鏡を用いて実験を進め、これまでにわかっている、睡眠の機能に関連する可能性のある生体分子の変化をより詳細に捉えることを目的とする。昨年度導入した統計学的な手法は引き続きしようし、非線形光学顕微鏡で得られる多次元データに対して、網羅的な解析を引き続き行う。さらに並行して非線形光学顕微鏡で明らかになりつつある、睡眠の機能に関連する可能性のある生体分子の変化を蛍光タンパク質による評価などの生物学的な手法によって確認する実験も行う。また、非線形光学イメージングと蛍光イメージングを同時に行うための装置開発も行う。 神経科学のテーマに関しては、昨年度同定した、線虫の睡眠の恒常性制御を担う神経細胞に着目して、睡眠の制御機構を明らかにする実験を行う。具体的にはこれまでに知られている睡眠に異常が起こる変異体において、睡眠制御を行っている神経細胞の活動がどうなっているのかを観察することで、睡眠の制御を担う神経回路や生体分子のパスウェイを明らかにする。
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Research Products
(4 results)