2021 Fiscal Year Annual Research Report
Study of the formation of dark matter-deficient galaxies using high performance computing
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21J21888
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大滝 恒輝 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 天文学 / 宇宙物理学 / 銀河形成 / 銀河進化 / ダークマター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、最近の観測で発見された、ダークマターをほとんど含まないような新しい銀河種族(ダークマター欠乏銀河)の形成過程を解明することが目的である。標準的な銀河形成論では、コールドダークマターの塊の中から銀河が誕生し、銀河全体の約90%以上をダークマターが占めていると考えられている。そのためダークマター欠乏銀河が存在することは、現在の理論モデルにおける大きな謎の一つである。本研究では、大質量銀河内を運動するダークマターサブハロー同士の衝突過程で、ダークマター欠乏銀河が形成されるモデルに着目している。これまでの研究で、同質量のダークマターサブハロー同士の正面衝突によって、ダークマター欠乏銀河やダークマターを多く含んだ通常の矮小銀河を形成する衝突速度の条件を導いた。 今年度は、ダークマターサブハローに含まれるガスの金属量が銀河形成過程に与える影響を調査した。衝突過程の解析的モデルの結果、ガス金属量が高くなるほど放射冷却の効果が強いため、低質量ダークマターサブハロー同士の衝突により、低質量のダークマター欠乏銀河や通常の矮小銀河の形成が起こることを示した。一方、低金属量ガスを含んだダークマターサブハロー同士の衝突では星形成を起こさずにサブハロー同士の合体が起こるような速度条件が存在する。ダークマターサブハロー衝突の物理過程を詳細に調査するために、最先端共同HPC基盤施設のスーパーコンピュータOakforest-PACSを用いて、三次元銀河形成シミュレーションを実行した。ダークマターサブハローの質量・衝突速度・ガス金属量といったパラメータを変化させた。その結果、観測されたダークマター欠乏銀河の質量と同程度のダークマター欠乏銀河が形成され得ることを示した。ダークマターサブハローに含まれるガスの金属量依存性や銀河進化の解析結果については、国内の研究会や学会、および国際会議で報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ダークマター欠乏銀河の形成過程を調査するため、現在までにダークマターサブハロー衝突過程に関する解析的モデルでの物理的な考察を行い、さらに衝突するダークマターサブハロー同士の質量・衝突速度・ガス金属量のパラメータを変化させた三次元銀河形成シミュレーションを実行している。ダークマター欠乏銀河の形成過程に関するこれらの解析結果を学術論文にまとめている段階であるため、進捗状況は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、銀河形成シミュレーションコードの性能をさらに向上させるとともに、ダークマター欠乏銀河形成の種となるダークマターサブハローの性質や、ダークマター欠乏銀河の進化過程を調査する。非平衡状態の化学計算の導入も検討する。 (1)非一様な密度場中を伝播する衝撃波を考慮した新しい超新星フィードバックモデルを銀河形成シミュレーションコードに実装し、そのモデルの有効性を確かめる。銀河形成シミュレーションにおける超新星フィードバックのモデル化はこの分野での三十年来の未解決問題である。本研究では、非一様な密度場における新しい超新星フィードバックモデルを構築し、超新星フィードバックモデルの違いがダークマターサブハロー同士の衝突やダークマター欠乏銀河の形成過程に与える影響を調べる。 (2)昨年度に引き続き、筑波大学デュアルディグリープログラムによるコンピュータサイエンスグループを含めた共同研究として、本研究で使用する銀河形成シミュレーションコードの高精度化を行う。高い演算性能を持つハードウェアの Graphics Processing Unit (GPU) を用いた場合における性能評価を行う。導入が予定されている筑波大学のスーパーコンピュータCygnus-BDを活用するために、複数のGPUを用いた場合におけるシミュレーションで高い性能を引き出すためのアルゴリズムの開発と実装を進める。 (3)最先端の大規模な宇宙論的シミュレーションである The Uchuu simulations (Ishiyama et al. 2021) 内で同定された天の川銀河程度のダークマターハロー内に含まれるダークマターサブハローの衝突過程や進化過程を解析する。この解析によって、ダークマターサブハロー同士の衝突確率やダークマター欠乏銀河の形成確率の知見を得る。
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