2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study of the formation of dark matter-deficient galaxies using high performance computing
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21J21888
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大滝 恒輝 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 天文学 / 宇宙物理学 / 銀河形成 / 銀河進化 / ダークマター / ハイパフォーマンスコンピューティング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、最近の観測で発見された、ダークマターをほとんど含まない新しい銀河種族「ダークマター欠乏銀河」の形成過程を解明することを目的とする。標準的な銀河形成論では、コールドダークマターの塊の中から銀河が誕生し、銀河全体の約90%以上をダークマターが占めていると考えられている。そのため、ダークマターの割合が全体の50%以下であるダークマター欠乏銀河が存在することは、現在の理論モデルにおける大きな謎の一つである。本研究では、大質量銀河内を運動するダークマターサブハロー同士の衝突現象がダークマター欠乏銀河を誘発的に形成するモデルに着目している。これまでの研究で、ダークマター欠乏銀河やダークマターを多く含んだ通常の矮小銀河が同質量のダークマターサブハロー同士の正面衝突によって形成するような衝突速度の条件を解析的に導き、シミュレーションによってそれらの形成・進化過程を調査した。 本年度は、このような衝突現象がどれくらい起こるのかを調べるために、解析モデルと数値シミュレーションを用いてホストハロー内を運動するサブハロー同士の衝突頻度を研究した。ホストハローが力学平衡状態であると仮定した解析モデルから、サブハロー衝突現象が起こる位置や衝突速度の確率分布を導いた。さらに宇宙論的N体シミュレーションの結果から衝突回数を測定した。これらの結果から、ダークマター欠乏銀河を形成するような衝突現象が矮小銀河の力学的タイムスケールと同程度の頻度で起こることを見出した。また、観測されたダークマター欠乏銀河のサイズが、他の銀河よりも大きいという特徴を調査するために、超新星フィードバックモデルを変えた三次元サブハロー衝突シミュレーションを実行した。超新星フィードバックが強いモデルでは、衝突によってガスのアウトフローが強くなり、より広がった構造を持つダークマター欠乏銀河を形成することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、解析的モデルや三次元衝突シミュレーションを用いて、ダークマターサブハロー同士の衝突過程を調査し、ダークマター欠乏銀河やダークマターを多く含む通常の矮小銀河が形成される条件を見出した。数値シミュレーションでは、衝突するダークマターサブハローの質量・速度の依存性だけでなく、超新星フィードバックが銀河の形成・進化に与える影響を調査した。これらの結果は現在、学術論文として投稿した。 また、大質量銀河内で発生するダークマターサブハロー同士の衝突頻度を求め、ダークマターサブハローの性質を議論した。これらの解析結果は既に国内の研究会や国際会議で発表しており、学術論文としてまとめている段階である。以上より、研究の進捗状況は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに開発した銀河形成シミュレーションコードの性能をさらに向上させるとともに、あらゆるダークマターサブハロー同士の衝突現象を考慮してダークマター欠乏銀河の進化過程を調査する。 (1)衝突パラメータや質量比が異なるダークマターサブハロー同士の衝突過程を解析し、ダークマター欠乏銀河が形成する条件に制限をつける。観測的性質や他の形成モデルと比較することで、衝突モデルの妥当性を検証する。 (2)これまでの我々の研究で、衝突によって形成する銀河の形態には、超新星フィードバックが大きな影響を与えることを示した。今年度は、非一様な密度場における新しい超新星フィードバックモデルを構築し、そのモデルの有効性を確かめる。 (3)昨年度実施した衝突頻度の解析をさらに発展させ、宇宙論的シミュレーション内で同定されたダークマターハロー内に含まれるダークマターハロー同士の衝突速度の確率分布を計算する。さらに潮汐相互作用によるダークマター欠乏銀河の形成確率と衝突現象による形成確率をそれぞれ求め、ダークマター欠乏銀河の観測可能性を議論する。 また昨年度に引き続き、筑波大学ハイパフォーマンス・コンピューティング・システム研究室を含めた共同研究として、銀河形成シミュレーションコードの高速化を行う。今年度稼働した筑波大学のスーパーコンピュータPegasusを活用するために、複数のGPUを用いた場合におけるシミュレーションで高い性能を引き出すためのアルゴリズムの開発と実装を進める。
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