2022 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚機能から見たマイルカ小目(哺乳類・鯨偶蹄目)の系統進化と適応放散の解明
Project/Area Number |
22J10139
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
GUO ZIXUAN 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ハクジラ類 / 中新世 / 系統解析 / 適応放散 / 機能形態 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度では研究実施計画の研究①と研究②について成果が得られた. 研究①の目的はマイルカ小目のより信頼性の高い系統復元を行うことである.系統解析にあたって,先行研究から網羅的に形質を集約整理統合して新たなデータセットを新たに構築し,現生種の系統関係を制約樹に用いて系統解析を行った.解析結果では,マイルカ小目の祖先の仲間であるケントリオドン類は単系統群としてマイルカ上科の姉妹群に位置づけられた.彼らの適応放散のパターンを復元するために,分散分断分布解析ソフトS-DIVAを使用した.ケントリオドン類の祖先は,前期中新世には北半球に出現し,後に世界的な放散が起こったと考えられた.彼らは中期~後期中新世にかけて減少し,トートニアンで絶滅に至り,マイルカ上科への交代が認められた.彼らの衰退の要因として,中期中新世に起こった急激な環境変化と関連していると考えられる.本テーマを国際誌Plos oneに投稿した. 研究②の目的は,耳骨の形態を比較し,機能形態の評価モデルを構築し,生態的ニッチを復元することである.本研究はケントリオドン類6標本及びマイルカ上科絶滅種6標本を計測し,現生種の計測データに追加し,主成分分析を行なった.結果について,ケントリオドン類の内耳形態は,マイルカ上科の内群にあるネズミイルカ科の現生種と高い類似度が認められた.一方,ネズミイルカ科の絶滅種では,現生種との間で形態の差異が認められた.ケントリオドン類のほとんどが,周波数の高い波形であるNBHF波を使う分類群との類似度が高く,NBHF波によってエコロケーションを行っていたことが示唆された.一方,ネズミイルカ科について,祖先種では現生種とは異なり,NBHF波が聞き取れなかった可能性が高いことも示唆された.本テーマを国際学会Society of Vertebrate Paleontologyに口頭発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究①の進捗状況について,マイルカ小目の祖先の仲間であるケントリオドン類について,系統解析に使用可能なほぼ全ての標本について検討した,さらに,日本から産出した頭蓋を含む保存良好な標本を記載して地理的空白を可能な限り埋めて,ケントリオドン類の系統進化史と適応放散過程を検討した.本テーマの結果を国際誌Plos oneに投稿済みで,当初の計画を完成したと言える.現在では引き続き未記載標本の記載及び系統解析を行っている. 研究②の進捗状況について,当初の計画では,ケントリオドン類及びマイルカ上科の絶滅種を網羅的に検討する予定であったが,現在までに計12標本のみを検討した.このため, 現在では予察的な結果が得られたが,更なる標本の追加が必要である.内耳形態を精密的に計測するために,実物をCT撮影し,計測データを得るために,化石の所蔵先の機関にアクセスし,標本調査する必要がある,当初では,国内外の標本を調査する予定であるが,渡航の制限及び先方所蔵館のアクセス制限,加えてこれらによる訪問の混雑により,海外の標本調査はほとんど見送りになり,現在までに計測した標本はほとんど国内所蔵のもののみであった.現在では引き続き先方所蔵館と連絡を取り,調査日程を調整中である. 研究③の進捗状況について,研究③は研究①と②の結果を合わせ,系統上で聴覚機能がどのようなシナリオで進化したかを解明するテーマであり,研究②の結果がまとまり次第進める予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
研究①について,ケントリオドン類を含めたマイルカ小目の系統進化史と適応放散過程を検討し,当初の計画をほぼ完成したが,この研究の延長として,引き続き標本を追加することで,更なる信頼性の高い系統復元ができ,進化史の全体像をさらに精密的に復元することができる.このため,今後の予定として,引き続き未記載標本の記載及び系統解析を行う. 研究②について,現在までに計12標本のみを検討し,予察的な結果が得られたが,更なる標本の追加が必要であるため,より多くの国内外の標本をさらに解析に追加することである.特に以下の博物館にマイルカ小目の化石が多く収蔵されているため,調査する予定である.1. アメリカ国立自然史博物館(United States National Museum of Natural History, Washington DC, USA)2. ロサンゼルス自然史博物館(Natural History Museum of Los Angeles County, Los Angeles, California, USA)3. ベルギー王立自然史博物館(Institut Royal des Sciences Naturelles de Belgique, Brussels, Belgium)4. ボローニャ大学ジョヴァンニ・カペリーニ博物館(Collezione di Geologia "Museo Giovanni Capellini", Bologna, Italy).今後の予定として,引き続き先方所蔵館と連絡を取り,調査日程を調整する. 研究③について,研究③は研究①と②の結果を合わせ,系統上で聴覚機能がどのようなシナリオで進化したかを解明し,さらに,中新世から現生にかけて起こったケントリオドン類とマイルカ上科の交代劇と生態的地位の転換を読み解く予定である.
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