2022 Fiscal Year Annual Research Report
組織閉鎖能と薬剤徐放能を有する組織接着性タラゼラチン粒子の開発
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22J20039
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
伊藤 椎真 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 組織接着 / タラゼラチン / マイクロ粒子 / 疎水性相互作用 / 粒子径 |
Outline of Annual Research Achievements |
内視鏡手術後の欠損部を被覆可能なマイクロ粒子ベースの創傷皮膚材の開発に向け、本年度は組織接着性マイクロ粒子の粒子径が粒子の噴霧挙動およびコロイドゲルの弾性率、組織接着性、水中安定性に与える効果を検討した。まず、タラ由来ゼラチンにデシル基を化学修飾し、疎水化タラゼラチンを合成した。コアセルベーション法に用いる溶媒組成(水/エタノール、水/1-プロパノール)の最適化および液体窒素によるエマルション凍結法により、4種類の粒子径を有する粒子を作製した(0.1~100 um)。得られた粒子を3時間、150℃で熱架橋を行うことで水に対する不溶化を行った。得られた径の異なる粒子を生理食塩水で水和させると粒子間に形成する疎水性相互作用に起因してコロイドゲルが形成した。得られたコロイドゲルを用いて貯蔵弾性率を測定した結果、粒子径の低下とともに貯蔵弾性率が上昇した。また、コロイドゲルの十二指腸粘膜下層組織に対する接着強度および水中安定性に関しても、0.1および1 umの粒子径で高い強度および安定性が得られた。以上の結果より、粒子径が減少することで粒子のパッキングが向上し、密度の高いコロイドゲルが形成したため、弾性率、接着強度および水中安定性が向上したと考察した。また、微粒子可視化システムで粒子のスプレー噴霧挙動を観察した結果、1 um以上の粒子では飛散が少なく良好な噴霧が可能であることが明らかとなった。以上の結果から、1 umの粒子が最適な粒子径であることが明らかとなった。この研究により、これまで明らかにされていなかった粒子径と組織接着性および飛散挙動の関係性を解明し、組織接着性タラゼラチン粒子の実用化へ向けた粒子径の条件を確定することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、内視鏡手術後の欠損部を被覆可能なマイクロ粒子ベースの創傷皮膚材の開発に向け、組織接着性マイクロ粒子の粒子径が粒子の噴霧挙動およびコロイドゲルの弾性率、組織接着性、水中安定性に与える効果を検討した。申請書の計画通り、粒子の作製条件を検討することで粒子径の異なる4種類の疎水化タラゼラチン粒子(0.1~100 um)を作成することができた。さらに粒子を水和することで得られるコロイドゲルの弾性率・組織接着性、粒子噴霧後の穿孔閉鎖能、水中安定性を評価することで、粒子径の低下とともにそれぞれのコロイドゲル機能が向上することを示した。さらに粒子のスプレー噴霧挙動を微粒子可視化システムを用いて観察することで1 um以上の粒子の噴霧性能が良好であることを明らかにした。以上の粒子の組織接着性および噴霧性能から1 umの疎水化タラゼラチン粒子が最適であることを示した。また、以上の研究内容を記した英語論文は化学雑誌にアクセプトされている(S. Ito et al., Acta Biomater., 2023, 159, 83-94.)。従って、本研究は当初の申請書の研究計画通りにおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
内視鏡手術によってがん組織を切除することに成功しても、がん細胞が残存する場合には、がんが再発してしまう。そこで、今後は内視鏡手術後の創傷に接着し、かつ組織に残存するがん細胞を死滅させる性能を有する疎水化タラゼラチン粒子コロイドゲルの設計を行う。抗がんメカニズムの中で、本研究ではがんが熱に弱い性質を利用した温熱抗がん治療(ハイパーサーミア)に注目する。具体的には、磁場に反応して発熱する酸化鉄ナノ粒子(FeNPs)を合成し、FeNPsと疎水化タラゼラチン粒子(C10MPs)を物理的に混合し水和させることでFeNPsが内包した疎水化タラゼラチン粒子コロイドゲル(Fe/C10MPコロイドゲル)を調製する。まず、得られるFe/C10MPコロイドゲルの粘弾性、組織接着性および水中安定性を評価することでFeNPsを添加することによるゲルの物性変化を検討する。次に、Fe/C10MPコロイドゲルに磁場を印加し、ゲルの温度変化を測定することで温熱治療に最適なFeNPs濃度を確定する。さらに、in vitro実験においてでヒト大腸癌細胞上にFe/C10MPコロイドゲルを添加し、磁場を印加した後に細胞生存率を測定することで発生した熱ががん細胞に及ぼす影響を評価する、最後に大腸がん細胞で担癌マウスを作成し、Fe/C10MPコロイドゲルをがん周辺に埋入した後に磁場を印加することでin vivoでの温熱抗がん効果を検討する。以上の実験により、内視鏡手術後の創傷を保護しつつ、残存がん細胞を死滅させる性能を有する材料を設計する方針である。
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