2023 Fiscal Year Research-status Report
褐藻の有性生殖において複合的に働く走化性・走光性の統一的解明
Project/Area Number |
22KJ0439
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
寺内 菜々 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 褐藻 / 配偶子 / 鞭毛 / 走化性 / 走光性 |
Outline of Annual Research Achievements |
褐藻を含む大型海藻は、一次生産者として光合成を行い沿岸域の生態系を支えている。褐藻は、大型化した藻体が栄養成長を繰り返すだけでなく、生殖細胞による有性生殖も確認され、褐藻の生活環制御において欠かせないステップである。有性生殖に際して雌・雄配偶子が効率的に出会うために生殖細胞は不等長2本鞭毛を使った様々な走性を利用することが知られている。つまり、走性を理解することは、褐藻の生活環制御を理解するうえで極めて重要であると考えられる。 これまで行ってきた研究から、褐藻雌性配偶子が放出する性フェロモンは基本的に雄性配偶子の走化性(化学物質の濃度勾配に従って動く現象)を制御するものであると考えられていたが、雄性配偶子の走光性(光が刺激となって動く現象)にも影響することが明らかになった。このことから、走化性と走光性が複合的に働き、有性生殖に極めて重要な役割(特に雌性配偶子への接近効率向上)を果たすことが推測された。これらの複合的走性メカニズムについてはタンパク質レベルでは全く明らかになっていない現象であり、生理学的にも更なる解析が必要とされる状況であるため、本研究ではこれらのことを明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
褐藻配偶子は前鞭毛と後鞭毛と呼ばれる不等長2本鞭毛を有し、それぞれはカルシウムイオンによる制御メカニズムが異なる。昨年度に行った鞭毛プロテオミクス解析で見つかったカルシウム結合タンパク質のうちの一つについて、ポリクローナル抗体を作成し局在を調べたところ、このタンパク質は後鞭毛と比較して前鞭毛の軸糸により多く存在する可能性が高いことが示唆された。このタンパク質について機能解析を行うために、鞭毛の除膜モデルを用いた再活性化実験を計画していたが、界面活性剤により鞭毛膜を除膜し運動性が失われた配偶子を、再び運動性がある状態に戻す条件については現在も検討中である。また、光受容から鞭毛波形変化までのシグナリング経路を明らかにするために、走光性がある種とない種について、オーストラリア現地で精子鞭毛を単離し、昨年度得られたトランスクリプトームデータを参照としてプロテオミクスを行う予定であったが、これについては計画通り遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
走光性あり・なしの褐藻精子鞭毛で得られたプロテオームデータを比較し、走光性ありの精子特異的にみられるタンパク質を検出する。この中の、特に他の生物群でも保存されているタンパク質について、ポリクローナル抗体を作成し、蛍光抗体法や免疫電子顕微鏡法、ウェスタンブロッティングにより局在を明らかにする。局在が明らかになったタンパク質の機能解析を行うために、褐藻鞭毛における再活性化実験に最適な条件を検討する。得られた結果については学会発表し論文として取りまとめる。
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Causes of Carryover |
オーストラリア現地海藻の鞭毛プロテオミクス解析を行うための滞在費用及び解析費用が、当初の計画より少なくてすんだため、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、翌年度分として請求した助成金と合わせ、主に、これまでに同定されたタンパク質の抗体作成費用、論文の英文校閲費用・投稿費用に使用する予定である。
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