2022 Fiscal Year Annual Research Report
土のコロイド特性を基軸とした土壌保全技術の高度化:土壌の構造持続性と受食性の解明
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20J00757
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Utsunomiya University |
Research Fellow |
山口 敦史 宇都宮大学, 地域創生科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2024-03-31
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Keywords | 土壌侵食 / 侵食抑制対策 / 受食性 / せん断強度 / スレーキング / 土壌改良 / 土の物理化学性 / 凝集 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌侵食(水食)が発生すると,降雨や流水の働きにより肥沃な表層土壌が削り取られることで,地力の低下や下流域の水質汚染などが引き起こされる.土壌侵食を効率的に抑制するためには,侵食シミュレーションモデルを用いて適切な対策を提案し,実施することが有効である.しかしながら侵食シミュレーションモデルでは,土壌の侵食されやすさ(受食性)を表すパラメータが土壌の構成要素から経験的な式を用いて決められることが多く,土粒子間の相互作用などの物理化学性を十分に表現できていない点に課題がある.そこで,土壌改良剤として高分子を混和することで土壌の物理化学性を制御しつつ,実験に基づいて受食性パラメータを評価した.これにより,土壌の物理化学性と受食性の関係を整理し,侵食シミュレーションの高度化につなげた.採用3年目にあたる令和4年度の主な成果は以下の通りである. 高分子を混和することで土壌の物理化学性を制御しつつ,団粒構造の破壊されやすさを評価するスレーキング試験,および土壌のせん断強度の測定を行った.さらに,同様の土壌を用いて降雨実験を行い,継続的な降雨下における受食性の変化を観察した.これにより,団粒構造のスレーキング耐性および土粒子間の相互作用と降雨による土壌の受食性の関係を評価した.その結果,土粒子間の引力が大きく団粒構造が安定な土壌において,降雨初期では土壌の受食性が小さく侵食量が小さくなること,降雨の継続による受食性の減少が小さく,降雨が長時間継続しても侵食量が減少しにくいことが示唆された.一方で,土粒子間の引力が小さく団粒構造が破壊されやすい土壌では,降雨初期の受食性が大きく,その後受食性が速やかに減少することが示唆された. 上記の研究に加えて,令和4年度には,土壌の受食性とせん断強度の関係についての研究成果を国際学術雑誌への論文掲載や国内外の学会での研究発表などを通して発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,土壌の物理化学性と受食性の関係を明らかにすることで,土壌侵食の予測および抑制技術を高度化することを目的としている.この目的のもと,土壌の受食性と物理化学性を評価する実験,および実験結果を応用した侵食シミュレーションを行うことを計画している.採用3年目にあたる令和4年度は最終年度となる予定であったため,実験および侵食シミュレーションを完了する計画であった.しかしながら,年度後半に日本学術振興会特別研究員の採用および本研究課題の遂行を中断したため,その時点での研究費の残余分を次年度に繰り越し,令和5年度まで研究を継続する運びとなった.研究期間の変更に応じて研究計画を修正したため,当初の予定では本年度に終了する予定であった研究計画から若干の遅れが生じている.具体的な研究計画の変更点および進捗は以下の通りである. 年度前半は研究計画に沿って,降雨実験とスレーキング試験を行い,インターリル侵食における土壌の受食性と団粒構造の安定性の関係を検討した.加えて,令和3年度までに実施したリル侵食およびインターリル侵食における土壌の受食性とせん断強度の関係に関する研究成果を取りまとめ,国内外の学会での研究発表および国際学術雑誌への論文掲載を行った. 年度後半には沖縄県石垣市を対象として,流域スケールでの侵食シミュレーションを行い,土壌侵食抑制対策の検討を行う予定であった.しかしながら,年度後半に本研究課題の遂行を中断したため,令和4年度には侵食シミュレーションは実施せず,令和5年度に行うこととした. 以上の研究の進捗状況を鑑みて,当初の研究計画において令和4年度末までに予定していた内容からはやや遅れているものと判断した.ただし,当初の研究計画は3年間で実施することを想定していたため,研究の中断に伴って研究期間が延長されたことを考慮すれば概ね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
採用4年目であり最終年度にあたる令和5年度は,年度前半が研究中断期間にあたるため,年度後半にこれまでの実験の補完的な実験と侵食シミュレーションを行う.具体的な研究推進方策は以下の通りである. 本研究で実施している降雨実験およびスレーキング試験では,土壌への高分子の混和量を変化させることで,土壌の物理化学性を系統的に制御しつつ実験することが可能である.令和4年度までに複数の高分子混和量で降雨実験とスレーキング試験を行い,団粒構造の安定性と降雨による土壌の受食性の時間的な変化の間に興味深い関係性を見出した.しかしながら,実験結果から得られた関係性を結論付けるにはより多くの実験が必要である.そこで,令和5年度にも同様の実験を異なる高分子混和量において実施し,これまでに行った実験とあわせて解析する. 上記の実験と並行して,沖縄県石垣市を対象地として,GeoWEPP(Geo-spatial interface for the Water Erosion Prediction Project)を用いた流域スケールでの侵食シミュレーションを行い,土壌侵食抑制対策を検討する.ここでは,土壌の物理化学性を表すパラメータと受食性パラメータの関係に基づいて,侵食シミュレーションで用いる受食性パラメータを決定する.このとき,土壌の物理化学性を評価するためのせん断強度の測定やスレーキング試験は侵食試験に比べて簡便かつ短時間で行えるため,様々な高分子混和量における土壌の受食性を評価できる.この利点を生かして広範な条件で侵食シミュレーションを行うことで,侵食抑制効果および経済的な側面から最適な土壌改良の条件を提案する.以上の研究を通して,土壌の物理化学性と受食性の関係に基づいた侵食シミュレーションの簡便化および高精度化を図る. 令和5年度は最終年度であるため,研究成果を順次とりまとめ,学術雑誌への論文投稿などを通して発表する.
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Research Products
(3 results)