2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J20135
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
栗原 崇人 千葉大学, 医学薬学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 配位子 / 光反応 / 可視光 / 遷移金属触媒 / パラジウム / ラジカル / 計算化学 / TD-DFT |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき、(1)可視光活性型ホスフィンリガンドのデザイン・合成・評価、及び(2)可視光活性型ホスフィンリガンドを用いた遷移金属触媒光反応の開発を実施した。 (1)可視光活性型ホスフィンリガンドのデザイン・合成・評価 時間依存密度汎関数法(TD-DFT)に基づく量子化学計算により、可視光活性型ホスフィンリガンドを分子デザインした。その結果、可視光を吸収可能なリガンド(以下Ligand A)のデザインに成功した。Ligand Aを実際に合成したところ、空気雰囲気下でも取り扱いが可能であり、冷蔵保存で安定な分子であった。また、Ligand Aの紫外可視吸収スペクトルを測定することで、TD-DFT計算による予測通り可視光を吸収可能な分子であることを確認した。さらに、遷移金属である0価または2価のパラジウム(Pd)錯体と共に撹拌することで、Ligand Aがリン原子を通して金属中心に配位していることを31P NMRの変化により観測した。 (2)可視光活性型ホスフィンリガンドを用いた遷移金属触媒光反応の開発 続いて合成したLigand Aを光反応に応用するため、Pd触媒と組み合わせ、適した反応剤の探索を行った結果、特異なクロスカップリング反応が進行することを見出した。本反応は可視光を吸収しない既存のホスフィン配位子では進行せず、今回開発したLigand Aを用いた時のみ生成物が得られたことから、可視光活性型リガンドに特有の反応と考えられる。また、可視光を吸収し励起したLigand AがPd錯体存在下でのみ消光したことから、Ligand AからPdに対する一電子移動が生じていることが示唆された。したがって、可視光の吸収により活性化されたLigand Aが配位先の金属を活性化していると考えられ、可視光活性型ホスフィンリガンドという本研究課題のコンセプトが実証された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請した研究計画通りに研究が遂行できているため。 当初の計画通り、量子化学計算により可視光の吸収が可能なホスフィンリガンドを分子デザインすることに成功した。これにより無数に考えられる分子の中から、目的とする機能を持った合成ターゲットを絞り込むことができた。また、デザインしたリガンドの化学合成にも成功し、可視光活性型リガンドとして用いるのに重要な3つの性質を有することを確認した。すなわち、空気雰囲気下でも取り扱い容易であること、可視光を吸収できる分子であること、そして遷移金属に配位することである。以上のようにリガンド開発に成功したため、続いて遷移金属触媒と組み合わせた光反応を探索した。その結果、開発した可視光活性型ホスフィンを用いた時のみ進行する特異なクロスカップリング反応を見出した。さらに反応機構を解析することで、可視光を吸収し活性化したリガンドが配位先のパラジウムを活性化したことを示唆するデータが得られた。 このように、研究計画通り可視光活性型ホスフィンのデザイン・合成・評価と、開発したホスフィンリガンドに特異な遷移金属触媒光反応を見出すことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
可視光活性型ホスフィンリガンドの開発に成功したため、今後は開発したリガンドの特性を生かした様々な遷移金属触媒光反応を展開する予定である。具体的には、現在までに発見したものとは異なる遷移金属や反応剤を用いたクロスカップリング反応の開発と、その詳細な反応機構解析を行う。 可視光を吸収し活性化されたリガンドは、用いる遷移金属や反応剤の電子的性質や軌道のエネルギー準位によって異なる挙動を示すと考えられる。効率的に研究を推進するため、遷移金属とリガンドを組み合わせた錯体を量子化学計算を用いて解析することで、可視光照射時の電子の動きを予測する。予測した知見をもとに反応条件を探索することで、様々な種類のクロスカップリング反応の開発を行う。また、熱条件ではヨウ素や臭素などを含む活性化された反応剤が汎用されているが、光照射時の一電子機構を鍵として、塩素やフッ素などを含む通常不活性な反応剤を検討していく。開発したクロスカップリング反応の反応機構を解析することで、可視光により活性化されたリガンドが配位先の遷移金属に与える影響を明らかにしていく。
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Research Products
(2 results)