2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J20337
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
秋山 吾篤 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
Keywords | 液晶 / 強誘電性 / 焦電性 / カラムナー液晶 / 水素結合 / ディスオーダー / キラリティー / 分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
【1】炭素数12,14,および16の分岐側鎖を導入したウレア分子について,引き続き強誘電性カラムナー液晶(FCLC)の調査を進めた。化合物の分極はいずれも低温ほど非線形的に長寿命化することが判明した。このような挙動は,ガラス化の過程で見られる現象であり,材料の分極の寿命や温度依存性をガラス転移に関する式で記述することで実測値をうまく説明することができた。これらFCLCの室温における抗電場(4 V/μm)は,これまで報告されたFCLCと比較して2桁程度小さい値を示し,容易に外部電場に応答可能であった。 【2】炭素数10のキラル側鎖を導入したウレア分子の分極状態を第二次高調波発生(SHG)測定で詳しく調査した。化合物は,結晶化させるだけで自発分極を示し,分極反転しない,焦電性を示した。焦電性と側鎖キラリティーの関係に興味を持ち,ラセミ体側鎖を出発原料とした類縁体を合成し,赤外分光法,SHG測定,および単結晶X線構造解析により2つの化合物を比較調査した。結果,側鎖のラセミ化により,分子充填がディスオーダーとなることで流動性が増し,化合物の電場応答性が向上することがわかった。しかし,外部電場除去後は,印加前の分極構造に再配列することから,完全な分極反転は起こらなかった(論文査読中)。以上の知見から,分子充填をより無秩序にすることで分極反転が達成されるという推測のもと,(1)液体または(2)嵩高い側鎖を有するウレア分子を焦電性結晶へ添加することを試みた。前者(1)は,液体成分の増大につれて,流動性が向上し,分子間水素結合が弱くなることで分極反転が実現した。さらに後者(2)は,混合によって安定なカラムナー液晶が発現し,嵩高いウレア分子の比が0.5以上の混合物で室温FCLCの発現が確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は単成分で室温FCLCを発現する分子を発見し,その分極反転の起源について分子間相互作用に着目して調査した。今年度は熱力学的な解析によってガラス化過程が分極の長寿命化に寄与していることを明らかにした。したがって,室温FCLCの実現のための分子設計の一つとして,嵩高い分岐側鎖の導入が有効であることが示された。分子間水素結合や分子充填を適度に「緩く」することで,液晶相の室温化と分極反転を促進し,さらに低温におけるガラス化過程によって分極が維持される機構を実証した。また,焦電性結晶において,より強固な(分極反転しにくく,分極維持しやすい)構造には側鎖のキラリティーが深く関与していることを明らかにした。室温FCLCを達成するための別のアプローチとして,分子の混合が有効であることも実験的に示された。以上の結果は,FCLCの劇的な低温化と動作電場の減少を両立できる前例のない手法であり,今後の基礎および応用科学の発展に寄与するものと考えられる。より多くの手法から室温FCLCを達成し,その発現機構を解明することで,ウレア分子以外の分子にも適用可能な,普遍的な分子設計の確立に向けて進展が得られた。 以上の結果は,現在論文作成中または査読中であり,国内/国際学会で発表することで,疑問点や情報の収集に努め,論文の執筆に活かしている。 したがって,本研究において主軸としている室温FCLCの実現と分子設計の確立は,おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
【1】単成分で室温FCLCを発現する分子:強誘電性発現の機構をおおよそ解明し,抗電場や分極の寿命などの物性値を求めた。本年度前半までに,これらの結果をまとめて論文投稿を目指す。また,今後,記録素子としての応用を見据えて,表面電位顕微鏡の測定およびデバイスの作製について検討していく。 【2】混合物で強誘電性を示す結晶またはカラムナー液晶:焦電性結晶を示す分子(査読中)と(1)液体または(2)嵩高い側鎖を持つ分子との混合物の分極状態を評価する。前者の測定はおおむね完了している。一方,後者は,混合により安定なカラムナー液晶が発現した理由が不明であり,電気的な測定も不十分である。また,これまでに得られたFCLCはいずれも応答速度や自発分極に課題が残っている。今後はアルキル鎖の体積分率や混合比に焦点をあて,電流測定やSHG測定を通して,これら現象の解明および課題の克服を目指す。前者(1)は年度前期の論文投稿,後者(2)は秋期の学会発表を経て年度後期の論文投稿を目指す。 【3】アミド基を有するπ電子不足/過剰型分子の混合による電荷移動(CT)錯体を用いた強誘電性材料についても研究を進める。アミド基を持たない分子は,単成分およびCT錯体いずれも液晶相を示さなかったが,アミド基を導入することで,一部の分子はカラムナー液晶やキュービック液晶を示すことがわかっている。π電子不足芳香環コアとして,ピロメリット酸ジイミドを採用した場合,長鎖を導入した際に準安定な液晶相が発現し,ナフタレン分子との混合でCT錯体形成時に見られる色調の変化が見られた。今後は,これらの吸収スペクトルや分極状態を調査する。また,ペリレンビスイミドをコアとして使用した分子の電場応答性について電流測定および電場による分子配向変化について調査を進める。
|
Remarks |
第31回ポリマー材料フォーラム研究室紹介ブース参加(2022年11月15日(火)~16日(水),タワーホール船堀)
|