2022 Fiscal Year Annual Research Report
回転型ケルビンプローブ法を用いた有機薄膜の自発配向分極の解明と新規制御法の開発
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22J21883
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大原 正裕 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | Giant Surface Potential / Orientation Polarization / Rotary Kelvin probe / Orientation Relaxation |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は以前から永久双極子モーメントを持つ分子が配向分極することで膜厚方向に巨大電位が生じるGiant Surface Potential (GSP) を研究している。 GSP の大きさは材料によって様々であるが、我々のグループはこれまでに「数nmずつ間欠的に蒸着を行うことで、同一材料でもGSP の大きさや極性が変化する」という、蒸着直後に表面緩和層ができることを示唆するような興味深い現象を報告している。 本年度は、我々が以前から開発している「回転型Kelvin Probe」を用い、蒸着時の表面電位変化をリアルタイムに測定することで、時間経過による配向の変化を詳細に観測した。測定にはバルブの制御で開閉がコントロール可能な蒸着シャッターを用い、それを一定時間のインターバルでON/OFFすることによって緩和時間を導入した。 その結果、蒸着直後に表面電位が数分のオーダーで減衰することを観測し、表面緩和層の形成がGSP の大きさや極性を変化させることを明らかにした。 このような、蒸着シャッターを一定間隔で開閉する「間欠蒸着」を繰り返すことで、緩和層が形成され、アモルファス膜の分極状態を切り替えることができることが明らかになった。実際に、間欠蒸着と連続蒸着を繰り返すことで、膜内で配向が反転した素子の作製に成功した。また、同一材料であっても蒸着を定期的に遮るだけの簡単な方法で、配向分極を任意に制御することに成功した。 この新しい蒸着法は、極性分子に限らず有機分子全般に適用可能であり、有機デバイスの性能向上や新規デバイスの作製につながると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は回転型KP装置を用いた測定システムを構築し、蒸着間隔の調整や電界の印加と自発配向との関係を調べることを目的とした。最初の段階ではこれらの調査を材料の種類をAlq3に絞って行うことで、表面緩和の条件やタイムスケールを特定することを目指した。 移動度が高い表面エリアのダイナミズムを測定するためには、蒸着終了後の変化を即座に観測することが求められる。 GSPの測定には従来からKelvin Probe法が用いられてきたが、技術的な問題により、成膜直後の数秒から数十秒で起こる変化を測定することができない。しかし、我々が開発したRotary Kelvin Probe(RKP)を用いることで、蒸着中、蒸着直後の表面電位の変化を連続的に測定することができる。 実際に蒸着源にシャッターを組み合わせて蒸着のON/OFFを繰り返しながら表面電位を測定することで、蒸着直後の表面電位が分のオーダーで減衰していることを観測した。また、一度に蒸着する膜厚に関係なく、最表面の分子のうち40%程度が配向緩和していることがわかった。 また、電界印加による配向性制御に関しては本年度はあまり進展させることができなかった。これは、KP測定時に印加する電界によって双極子に与えられるエネルギーが、室温のエネルギーにくらべて二桁程度低いことが判明したからである。来年度以降はKP測定とは別に大きな電界を印加する行程を追加し、配向を積極的に制御していくことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、これまで調べられていなかった多種の有機半導体材料に対して上記の知見を活かした配向制御の適応を試す。分子の立体的な構造によっても自発配向分極が変化することが報告されているので、材料の候補についてはGSP材料として有名なTPBiや球状の Ir(ppy3)、板状の BCP、棒状の OXD-7 などを検討している。 特にTPBiに関しては以前より我々の研究室で、蒸着間隔とGSPの形成の相関が報告されている。TPBiに対しても間欠蒸着法を適用することで、Alq3同様任意の配向制御ができるようになる可能性がある。 さらに最近では、回転KPのサンプルホルダーを改造することでヒーターと熱電対を内道できるようになり、基板温度の調整が可能になった。基板温度を上昇させると基板表面での拡散速度が上昇するため、配向緩和の時定数が変化する可能性がある。実際にAlq3に対して基板を加熱した状態で蒸着を行い、室温の場合と比べて配向度が小さくなることを確認している。 また、蒸着をしている最中は蒸着ヒーターからの輻射熱で基板表面の温度が変化してしまう。これを抑えるために蒸着源と基板との間にチョッパー(切り欠き部を持った円盤を2枚組み合わせて回転させて、特定の速度の有機分子だけを透過させる)を入れて、蒸着源からの赤外線をカットして蒸着できるように装置を改造することを予定している。 以上のように、輻射熱を遮蔽して蒸着しながら自動で表面電位測定を行い、種々の有機アモルファス薄膜の自発配向による電位の大きさや極性を制御するパラメーターを探索し、精密に分極電位を制御する手法を確立する。これにより、有機EL素子や振動発電などの効率向上が期待される。
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Research Products
(3 results)