2020 Fiscal Year Annual Research Report
ハンス・ケルゼンの民主主義論の成立過程の解明:民主主義と少数者保護を中心に
Project/Area Number |
19J00079
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 彩花 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(CPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2024-03-31
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Keywords | ハンス・ケルゼン / 民主主義論 / 政治思想史 / オーストリア共和政 / 多民族国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ハンス・ケルゼンの民主主義論の成立過程を解明することにある。多民族国家オーストリアの歴史的文脈に位置付けつつ、民主主義と個人の自由および少数者保護の関係を中心に、ケルゼンの思想の発展過程を再構成する。 当該年度においては、新たに公刊されたケルゼン全集や伝記、ケルゼンの遺稿の調査に基づき、以下の通り研究を進めた。第一に、ケルゼンにおけるJ. J. ルソーの人民主権論の受容、特に一般意志の概念に対するケルゼン独自の解釈が形成される過程を解明した(研究課題2)。第二に、同時代の政治史的文脈に位置付けつつ、評議会制および行政に対する民主的統制に関する彼独自の議論が展開される過程を再構成した。評議会制の理念に共感を寄せつつ、管区行政の民主化という共和国初期の政治的課題に取り組むなかで、ケルゼンは行政の執行主体に対する民主的統制という主題を設定し、そのための効果的な手段として憲法裁判所の有する行政裁判権の意義を重視したこと、そしてこれを民主主義における個人の政治的自律と少数者保護のために不可欠の制度として位置付けたことを明らかにした(研究課題3)。 また、ヴィーンで在外研究を行うなかで、オーストリアのケルゼン研究者との意見交換を通じて議論の精緻化を試みた。ケルゼン研究所所長Th. Olechowski氏、Klaus Zeleny氏、Miriam Gassner氏等ケルゼン研究者との対話のなかで、最新のケルゼン研究の動向を探るとともに、現在の研究内容および今後の研究課題について助言をいただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては年度初めにオーストリアへ渡航する予定であったが、新型コロナウィルス感染症の影響のために、予定していた時期に在外研究を開始することができなかった。その間、公刊されたケルゼン全集や伝記、二次文献等、日本国内で入手できる資料を利用して研究を進め、円滑に在外研究を開始できるよう準備を行った。 渡航後には、予定通り、ハンス・ケルゼン研究所所長Th. Olechowski教授の助言を得ながら、資料の収集・調査に努めた。その結果、ケルゼンにおけるJ. J. ルソーの人民主権論の受容、そして一般意志の概念に対するケルゼンの議論の形成過程を解明し、本研究課題2を公表するための準備を整えることができた。さらに、評議会制、行政に対する民主的統制、憲法裁判所の行政裁判権に関するケルゼン独自の考察が展開される過程を、民主主義論との関係において詳らかにすることができた。以上二点の課題を達成できたことは、ケルゼンの民主主義論の形成過程を再構成するという本研究課題の遂行にとって本質的な意義をもつ。 以上の理由から、本研究課題は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続きヴィーン大学法学史・憲法学史研究所の客員研究員として、Th. Olechowski教授の下で研究を進める。ハンス・ケルゼン研究所での資料調査に基づいて一次文献研究を進めつつ、オーストリア国内外の研究者との対話を通じて議論を精緻化し、研究課題の達成を目指す。 第一に、これまでに行った資料調査および文献研究に基づき、研究成果の公表に努める。ケルゼンにおけるJ. J. ルソーの人民主権論の受容、一般意志の概念に対するケルゼンの議論の形成過程を主題とする論文を完成させる。 第二に、一次文献研究を通じて以下の点を解明し、公表のための準備を進める。1920年代半ばから後半にかけてのケルゼンにおける職業身分制批判の内容とその民主主義論への影響について検討する。さらにオーストリア第一共和政における憲法起草者、そして憲法裁判所判事としてのケルゼンの活動を参照し、憲法裁判所構想と民主主義論との関係を詳らかにする。 第三に、すでにコンタクトのあるオーストリア国内のケルゼン研究者だけではなく、ドイツ在住のケルゼン研究者に面談し、研究状況について意見交換を行う。
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