2022 Fiscal Year Annual Research Report
ハンス・ケルゼンの民主主義論の成立過程の解明:民主主義と少数者保護を中心に
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19J00079
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
松本 彩花 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(CPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2024-03-31
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Keywords | ハンス・ケルゼン / 民主主義論 / 独裁批判 / 擬制 / 違憲審査権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ハンス・ケルゼン(1881-1973)の民主主義論の成立過程を解明することを目的とする。多民族国家オーストリアの歴史的文脈に位置付けつつ、民主主義と個人の自由および少数者保護の関係を中心に、ケルゼンの思想的発展過程を再構成することを目指す。 本年度は第一に、これまでの研究成果を踏まえて次の通り研究を進めた。まず、マルクス主義の独裁論に対するケルゼンの批判の内容を詳らかにし、プロレタリア独裁批判と民主主義論の関係を考察した。民主主義論と並行して執筆された「社会主義と国家」(初版、1920年)における議論を、カール・シュミットのプロレタリア独裁論と比較することでその特徴を浮き彫りにしようと試みた。次に、擬制に対するケルゼン独自の見解に注目し、民主主義、少数者保護および個人の自由の擁護に関する議論を再構成した。そして、ケルゼンの民主主義論の形成過程における擬制の概念の意義を把握した。最後に、共和政憲法起草者および憲法裁判所判事としてのケルゼンに焦点を合わせ、その実践的および理論的活動を明らかにするための文献研究を行った。Th. オレコウスキー教授による伝記的研究に依拠しつつ、オーストリア第一共和政憲法の起草過程においてケルゼンが果たした役割、そしてそこで彼が主張した憲法裁判所構想とその違憲審査制論を明らかにするとともに、憲法裁判所判事としての活動について把握した。 第二に、ケルゼン研究所での資料調査を継続し、一次資料の収集に努めるほか、ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州立文書館でさらなる遺稿調査を行った。 第三に、海外所属研究機関であるヴィーン大学法制史・憲法学史研究所のコロキウムに参加し、公法学史における重要な論点について若手研究者らとの討論に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も引き続き、ヴィーン大学法制史・憲法学史研究所客員研究員として在外研究を行った。Th. Olechowski教授による伝記的研究から重要な示唆を得つつ、一次資料に基づく文献研究を進めた。ケルゼン研究所およびノルトライン=ヴェストファーレン州立文書館での遺稿調査および解読作業を通じて、本研究課題の遂行のために必要な情報を収集し、成果公表のための準備を行った。また、ヴィーン大学法制史・憲法学史研究所所属の研究者らと活発に意見交換を行い、法制史および政治思想史における最新の研究動向について伺う機会を得ることができた。そして、民主主義論の成立過程を解明するという本研究について、 Olechowski教授をはじめとして同研究所の研究者から、今後の研究の発展にとって有益な助言をいただいた。 以上の理由から、本年度においては当初の計画通り順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度前半期においてはヴィーンで在外研究を継続し、後半期には所属研究機関である東京大学社会科学研究所において研究成果の公表に尽力する予定である。第一に、これまでの研究内容を発展させ、以下の課題の達成に努める。まず、概念と現実の間の緊張関係に対するケルゼン独自の見解に注目し、擬制についての考察が彼の民主主義論の形成に与えた意義を検討する。次に、自由委任および国民代表の思想をめぐる歴史的文脈に位置付けつつ、ケルゼンが人民主権論と代表制の関係をどのように理解したかを解明し、その現代的意義を考察する。最後に、これまでの研究成果を総合し、国民国家における少数者保護に関する現代の実証的研究との接合を目指す。具体的には、現代における独裁および権威主義体制の問題、ナショナリズムと少数者保護をめぐる現代の問題に対して、ケルゼンの思想がいかなる意義を持ちうるか、その射程を検討する。 第二に、これまでの在外研究の成果について、ヴィーン大学法制史・憲法学史研究所において研究報告を行う予定である。所属研究者との討論を通じて、自らの研究の意義を国際的研究の文脈に位置付けるとともに、その独創性を積極的に強調する。 第三に、博士課程において従事したカール・シュミットの民主主義論の成立過程に関する研究と併せて、在外研究中の研究成果を取りまとめ、単著公刊に向けた改稿作業を行う。
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