2023 Fiscal Year Annual Research Report
Studies on Religious Education in Alsace-Moselle
Project/Area Number |
22KJ0495
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白尾 安紗美 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 宗教教育 / アルザス=モゼル / ライシテ / 宗教知識教育 / 政教分離 / 公教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終年度にあたる本年度は、第二次世界大戦後のアルザス=モゼルにおいてライシテが受容されてきた過程を、宗教教育の変革との関係のなかで紐解くため、二度の現地調査で得られた資料分析やインタビューの内容に基づき、宗教教育の変革に関係する重要な出来事や、手がかりとなる用語を精査する研究を行った。 本年度はフランス、アルザス地方とモゼル県で二度の調査を行った(2023年5月、2024年2月)。これらの調査で入手した資料や、宗教教育関係者を対象に実施したインタビュー内容などを通して特に注目したのは、アルザス=モゼルの公立小学校の特徴を表す「宗派混成学校」という語である。「宗派混成学校」は19世紀のフランスですでに存在していた異宗派の子どもが通う学校形態だが、とりわけアルザス=モゼルでは、戦間期から今日にかけて、学校の脱宗教化やライシテの原則との関係の中で用いられてきたことが明らかになり、この成果は学術論文や学会、各種研究会の場で発表した。 本研究は、理念的には相容れない共和国のライシテと宗教教育が、アルザス=モゼルでなぜ維持され、いかなる過程を経て共存してきたのかを検討してきた。この地域の宗教教育の変化はローカルな次元で起きているものに映るが、20世紀後半の西洋社会で見られた世俗化現象やフランス国内のライシテ解釈の変容、公教育における宗教的知をめぐる議論などの影響を多分に受けている。特に、政教分離法が適用されていないアルザス=モゼルで(共和国の価値観としての)ライシテの受容を推し進めた一つの要因には、2000年代以降フランスの公教育で導入される「宗教事象教育」があった。第二次大戦後のアルザス=モゼルは共和国に統合されながら、宗教と教育に関しては完全に同化されずに差異が保たれてきたが、本研究はこのような普遍性と特殊性が生み出す緊張関係を描き出す事例研究となった。
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