2020 Fiscal Year Annual Research Report
有理写像の高次力学系次数の計算および安定化問題の部分的な解決
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20J23094
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
LEE Chunghyun 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 力学系次数 / K-不変部分空間 / 積公式 / モノミアル写像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は有理写像の高次力学系次数の計算および安定化問題の部分的な解決であり、本年度(博士課程1年目)の研究目標は計算に適切なK-不変部分空間を見つけ、制限された高次力学系次数を求めることであった。研究方法に関しては、可能性のあるK-不変部分空間として1)巡回行列部分空間、2)巡回かつ対称行列部分空間に注目し、制限された高次力学系次数を求めることを第一の目標にした。その基本的なアイデアはBedford, E., & Kim, K (2004) やBedford, E., & Kim, K (2005) などの論文を参照した。結果として2種類のK-不変部分空間に対して高次力学系次数を求めること、そして他の対称性を追加しながら計算複雑度を調整することに失敗した。しかし研究の途中で、力学系次数に関する他の結果を得ることができた。以下に延べる。 力学系次数に関しては積公式というのが知られている。これは力学系次数を、それに共役な有理写像の力学系次数と相対力学系次数を用いて表す公式である。ここで自然に次のような疑問が生じる。両方の力学系次数が分かっていたら、逆に積公式から相対力学系次数を全て求めることはできないか?本年度、有理写像を研究している時に、相対力学系次数が両方の力学系次数と積公式では決まらない例を作り出すことができた。詳しくはモノミアル写像という特別な有理写像に注目し、問題をある種の線形代数の問題に帰着させることによって得られた。つまりこの結果は、積公式だけでは相対力学系次数を条件付きでしか求めることができず、より精度を上げるためにはミンコフスキー重みなどを用いた他の方法を工夫する必要があることを意味している。この結果は論文にまとまり、出版された。(Chunghyun, Lee (2021) )
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず本年度は計算に適切なK-不変部分空間を見つけ、制限された高次力学系次数を求めることであった。特に1次力学系次数を計算した先行研究(Bedford, E., & Truong, T. T. (2010))に注目し、可能性のあるK-不変部分空間として1)巡回行列部分空間、2)巡回かつ対称行列部分空間を本研究で扱うことにした。しかし、結果として上記のK-不変部分空間に対して高次力学系次数を求めること、そして他の対称性を追加しながら計算複雑度を調整することに失敗した。本年度の研究目的を達成できなかった理由について次の問題点が挙げられる。(1) まず上記の2つの対称性は高次力学系次数の増加する複雑度までカバーできなかった。(2) 他の対称性を追加しながら計算の複雑度を調整してみたが、空間を制限しすぎて殆ど自明な場合になってしまい、結果が意味を持たなくなった。 来年度は有理写像Kの双有理変換による安定性問題および数値的な計算に取り組む予定だったが、上記の問題点を先に解決しなければならない。そのためには、本年度のようにK-不変部分空間に制限するのではなく、全射影空間に対して高次力学系次数を直接計算する方法を工夫する必要がある。以上の理由で現在の研究進捗状況は、本来想定していたのよりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は有理写像Kの双有理変換による安定性問題および数値的な計算に取り組む。安定性問題に関しては基本的に Bedford, Truong などによる先行論文を参照する。安定モデルが得られたら計算機で数値計算を行い、力学系次数の一般項を予測することができる。しかし本年度は研究目標の達成に失敗したので、先にそれを解決する必要がある。 まず、来年度ではK-不変部分空間に制限するのではなく、全射影空間に対して高次力学系次数を直接計算する方法を研究する予定である。それには元の空間をブローアップして代数多様体を安定に置き換えるところがキーポイントになると考えられる。基本的にはFulton, W: Intersection theory (2013) などの交叉理論に関する本と Bedford, E., & Truong, T. T. (2010)、 Lin, J. L. (2010)のアイデアを参考にする。以上の方法で本年度の研究の問題点が解決できたら、得られた値と予測した有理写像Kの高次力学系次数との比較が可能になる。もし2つが同じ値であれば、高次力学系次数が正確に求まる。そうでない場合でも高次力学系次数の有意味な不等式評価が得られる。
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Research Products
(1 results)