2023 Fiscal Year Annual Research Report
震源域近傍の異常構造を考慮した地震波形モデリングによる、スロー地震の新しい震源像
Project/Area Number |
22KJ0503
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤 亜希子 東京大学, 地震研究所, 特任研究員
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 南海トラフ / スロー地震 / 非火山性微動 / 広帯域海底地震計 / DONET |
Outline of Annual Research Achievements |
プレート境界には、巨大地震を含む「普通地震」と、普通地震よりもゆっくりと断層がすべる「スロー地震」の二種類の断層すべりが存在し、それらを分ける成因の解明は地震学の重要課題である。本研究では、海底観測網DONETの地震計記録を精査し、小さなサイズのスロー地震である「微動」と「普通地震」の地震波形の違いを生み出す成因の解明に取り組んだ。
地震波形は「震源過程」と「伝播過程(構造特性)」の重ね合わせであり、微動と普通地震の波形の違いが、前者の「震源過程」にのみに起因すると従来考えられてきた。最終年度に出版したToh et al., (2023)では、それが後者の「伝播過程」にも起因する可能性を初めて指摘した。具体的には、まず、微動の中に普通地震並みに短いシグナル継続時間を呈するもの(~2s) を見出した。次に、微動のシグナル継続時間が、直上の観測点から少し離れた観測点へ急伸することを見出した。その特徴を、地震波伝播シミュレーションにより、震源近傍に泥パッチが点在する激しい地震波散乱構造で定性的に説明した。そして、スロー地震を普通地震と分ける要因が、震源域のこのような水/泥の存在形態(i.e. 大きなパッチ)に起因する可能性を指摘した。
更に、スロー地震発生域構造に関する幅広い空間スケールの観測データが、どれも短波長パッチ構造と調和的な構造を示唆することが分かってきた。そのような観測データの一つである海底下掘削データは、スロー地震発生域に高間隙水圧パッチが点在する構造を示唆する。そして、同じ領域で、反射法構造探査の反射シグナルは著しく低下する。この性質を利用し、地震波伝播シミュレーションにより、高間隙水圧パッチの空間スケールの制約に取り組んだ。その結果、反射シグナルの低下を説明するような構造では、各パッチが幅30m、厚さ5mよりも小さいことを示した。
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