2022 Fiscal Year Annual Research Report
近傍銀河内の分子雲衝突現象から解明する星形成が起きるための物理条件
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21J00108
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前田 郁弥 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 星形成 / 銀河 / 分子雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は近傍銀河の分子雲衝突に関連して以下の2つの研究を行った。 1. 近傍棒渦巻銀河の星形成効率の統計的研究: 棒渦巻銀河の棒部は星形成活動が抑制されていると考えらているが、詳しい調査が行われている銀河の数は限られていた。そこで、近傍の棒渦巻銀河18個に対して、分子ガストレーサー(CO輝線)と星形成トレーサー(遠紫外線と中間赤外線)のアーカイブデータを用いて、中心・棒部・棒部と渦巻腕の結合部(Bar-end)・渦巻腕を区別して、統計的に星形成効率(=単位分子ガス量に対する星形成率)の調査を行った。このような詳細に領域を分けた統計的調査は初めてである。その結果、棒部の星形成効率は渦状腕に比べて系統的に0.6-0.8倍低い、つまり渦巻腕に比べて星形成活動が抑制されていることが確認された。さらに、星形成効率の抑制度合いは分子ガス輝線の速度幅が大きいほど強くなる傾向にあることも発見した。この結果は、分子雲同士の衝突が激しいほど星形成活動が抑制される傾向にあるこというシナリオと矛盾ない(Maeda+23)。
2. 近傍棒渦巻銀河NGC3627を対象とした分子雲衝突に関する研究: 近傍棒渦巻銀河NGC3627を対象に分子雲衝突と星形成の関係を調べた。NGC3627はBar-endで非常に活発な星形成活動が見られる一方で、棒部では星形成活動が弱く、星形成の多様性がはっきり見えるため、分子雲衝突によって星形成か誘発(抑制)されるための物理条件を解明するのに適している。分子雲のカタログを用いて、ランダム運動の仮定のもと分子雲同士の衝突速度を求め、星形成率と比較した。その結果、衝突時間が短いほど、また、衝突する分子雲の面密度が低いほど、星形成率が低い傾向にあることがわかった。この結果は、分子雲衝突シミュレーションで報告されている傾向と定性的に一致している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、分子雲の衝突速度を求めるために、衝突中の分子雲をALMA望遠鏡を用いて、高角分解能で直接観測する手法を用いる予定である。そのため、ALMA望遠鏡へ観測を提案したが、残念ながら採択されなかったため、こちらの手法による作業は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は以下の2つの研究を行う。 1. NGC3627を含む近傍の円盤銀河の分子雲衝突研究: まずは、昨年度から続けいている棒渦巻NGC3627における分子雲衝突研究を続ける。すでに一時解析は済んでおり、結果の解釈を共同研究者と進めていく。ただし本研究では、分子雲が衝突していることを仮定して解析しており、本当に分子雲衝突が起きているかはわからない。今後は、実際に分子雲衝突の直接観測するため、ALMA望遠鏡に高角分解能分子ガス観測を提案する予定である。同じ手法を他の円盤銀河に適用し、銀河の内部構造や、銀河自体の性質が分子雲衝突に及ぼす影響を考えていく。 2. 衝突銀河と矮小銀河における分子雲衝突研究: 以上の手法を、他の円盤銀河だけではなく、近傍の衝突銀河や矮小銀河にも適用していき、様々な環境での分子雲衝突を調べていく。衝突銀河に関しては、京都大学の研究チームの大学院生とすすめていく。矮小銀河については、本研究では潮汐矮小銀河(TDG)を対象とする。TDGは、強い重力ポテンシャルや暗黒物質が存在しない点で普通の円盤銀河に比べて非常に特殊であるが、大質量星形成領域が見られる。TDGの分子ガスはまだ例が少なく、本年度は野辺山45mを使った分子ガス観測を行いつつ、ALMA望遠鏡に分子雲観測の提案を行う。
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