2021 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀フランスの人文主義法学における契約論の展開―アルチャートからコナンへ
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21J00227
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
秋元 真吾 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | フランソワ・コナン / アンドレ・アルチャート / 人文主義法学 / 契約論 / 体系化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度はコロナ禍の状況に鑑みてイタリアでのアルチャートに関する史料調査は断念した。それに代わって、当該年度は訴願審査官コナンがどのような知的脈絡に立って契約論を構成したかを明らかにする作業を中心に行った。具体的には、まず、(1)オルレアン大学時代の友人であるカルヴァンのコナン宛書簡を分析し、コナンが1530年頃にアルチャートに傾倒していたことを明らかにした。ここから、実質的な影響関係を言い得るようになった。次に、(2)コナンが契約論を練り上げた1540年代の宮廷における知的状況を明らかにするため、大法官フランソワ・オリヴィエの人的ネットワークをプロソポグラフィーの成果を用いつつ分析し(コナンはこのネットワークに属する)、この中で法学を体系化する作業が同時並行的に企図されていたことを明らかにした。コナンだけが唯一、契約論を軸とする法学の体系化を成功させた。(3)オリヴィエのネットワークが宮廷の高位行政官における人文主義受容の媒体となっていたこと、このネットワークが後の大法官ロピタルのそれ(後にいわゆるポリティーク派を構成する人々が属するネットワーク)と連続性を有することを明らかにした。コナンの理論と関連させつつ、このネットワークの研究を引き続き行う予定である。 2022年11月にパリの研究会にて研究成果の一部を発表することが決まった。また、2023年初頭(時期未定)にパリの研究会にて高等法院に関する発表を行う予定である。以上とは別に、人文義法学に関する仏語書籍(Drozより出版予定)のうちの一章(「法学の体系化(Systematisation du droit)」)を担当することが決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたアルチャートに関する研究はコロナ禍の状況に鑑みて後日行うことになった。しかし、却って2021年度の研究を通じてアルチャートからコナンへの実質的な影響関係が明らかになったことで、両者の比較作業への史料的な基礎付けが出来たと言える。ここから、本年度以降、コナンがアルチャートの契約論をどのように発展させたかを明らかにする作業に取り掛かる。他方、コナンの知的作業を宮廷のネットワークに位置付けることができたことも研究課題の進捗にとって重要であった。アルチャートの理論からの飛躍を説明する一つの要因が宮廷の法曹エリートが認識していた状況と関連する可能性が高いからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、大別、以下の三点が挙げられる。(1)アルチャートの契約論に関する研究を進展させること、(2)宮廷での人文主義受容に関する研究を深めること、(3)コナンの契約論に関する研究を進めること。一点目に関しては引き続き状況を注視しつつ、ミラノでの史料調査を行い研究を進めたい。二点目に関しては、既に書簡研究を通じて一部の高位行政官がコナンと同様の試みをしていたことを明らかにした。書簡研究を継続しつつ、なぜ主として宮廷の法曹エリートが体系化を強く目指したのかを具体的に明らかにする作業を行いたい。第三点目に関しては、コナンの大著(『市民法註解』)の契約論(第5巻)に関する部分の研究を行う。
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