2022 Fiscal Year Annual Research Report
16世紀フランスの人文主義法学における契約論の展開―アルチャートからコナンへ
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21J00227
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
秋元 真吾 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | フランソワ・コナン / アンドレア・アルチャート / フランソワ・ル・ドュアラン / 人文主義法学 / 体系化 / 契約論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は昨年度に引き続き、(1)宮廷での人文主義の受容についての研究に従事すると同時に、(2)訴願審査官フランソワ・コナンの契約論の分析を進展させた。敷衍するとまず、(1)コナンの契約論を史的脈絡に位置付けるため(前年度に明らかにした)人文主義に親和的な高位行政官のサークルの人的ネットワークの理解の解像度を高める作業を行った。これを通じて、当該サークルに属する行政官がギヨーム・ビュデ(訴願審査官としてフランソワ1世と密接に連帯した人文主義者)と直接の親交を有し、ビュデの別荘を拠点の一つとして人的交流を深めたことを明らかにした。重要なのは、このサークルの中にアルチャートの契約論からコナンのそれを結ぶにあたり、看過し得ない法学者を見い出したことである。フランソワ・ル・ドュアランは、ビュデの薫陶を受けたのち、アルチャートの後継としてブールジュ大学に赴任した人物であり、当該サークルの行政官と関心を共有して「契約」に着目する。当該年度は、ドュアランの契約論に取り組む前提として、彼が研究史上(コナン同様に)目指したとされる法学の「体系化」がいかなるものであったかを明らかにする作業に従事した。結果、彼の「体系化」が宮廷における「体系化」の試みとは異なり、大学教育におけるローマ法の体系化(素材の再構成)に主眼があることを明らかにした。(2)以上と併行して、コナンの無名要物契約論の前提となるアリストテレスの『二コマコス倫理学』第5巻の読み替え作業を分析した。コナンが交換関係における衡平の実現を「正義」の実質と規定し、これを契約論の基礎とすること、また、衡平を行政官にとって統治の際の指針とすることを明らかにした。成果としては、ドュアランの「体系化」に関する報告を国際研究会にて行ったこと、当該報告を基礎にした論文がLGDJより刊行予定の研究会報告集に掲載されることがある(今夏刊行予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、昨年度のコロナ禍の渡航規制の影響を受け、当初予定していたアルチャートの契約論それ自体の分析から始めることをせず、コナンの議論から遡る形でアルチャートの契約論に到達する作業を行うことにした。そのため、本年度もアルチャートの契約論の分析は十分に進展しているとは言い難い。それにも拘らず「概ね順調に進展している」と評価する所以は、コナンの契約論が形成された背景を探る中で宮廷における(今日凡そ知られていない)サークルの存在を突き止め、その中にコナン同様、その重要性にも拘らず研究の僅少なフランソワ・ル・ドュアランを位置付けることができたことを理由とする。今後、ドュアランがなぜ契約に関心を有したのか、いかなる契約論を定立したのかを扱うことで、コナンのそれを史的脈絡に位置付ける作業に立体感を与えることが期待できる。なぜなら、ドュアラン自身、アルチャートの著作を研究し、契約論を構築するに際してこれを大いに参照しているからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はドュアランの契約論(及びそれに関連する諸論)を参照関係に留意しつつ検討し、この作業と併行してアルチャートの契約論の分析を行う。また、以上の作業を経てのち、16世紀の契約論に関する成果を公にしていく。具体的には、既に国際誌Revue de Syntheseにコナンの契約論を主題とした論文を掲載するプロジェクトが承認されていることから、当該論文を執筆する(査読を通過すれば2024年に出版予定)。また、以上と併行して、パリ第二大学を拠点とする研究者ネットワーク「人文主義法学」から出版予定の編著の担当分野(「法学の体系化systematisation du droit」)の執筆も行い、研究成果を公にしていく。この書籍は仏語版出版後、英語への翻訳が予定されている。
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