2022 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀フランス思想における精神分析の「無意識」概念受容とその展開
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21J00259
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 卓也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 精神分析 / 無意識 / フランス思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(ポリツェル以来の)「無意識の実在論」批判の系譜、という見立てに基づき、20世紀フランス思想史において精神分析の無意識概念がいかなる刷新を経てきたかを明らかにすることを目的としている。本年度は、とりわけ以下の項目について研究を行った。 1)50年代以降のフランス思想・精神分析における無意識概念について、関連する文献の読解をすすめた。とくに「無意識」をテーマに掲げ、著名な哲学者、精神分析家、精神科医を集めた1960年のボンヌヴァル・コロックについては、個別の発表だけでなく、参加者たちの論争を吟味することで、議論を文脈化する作業を行った。 2)並行して、前年度の成果の一つである初期ラカンにみられるメイエルソン哲学への参照の意義についての考察を補完し、論文化した。またラカンの博士論文については、そこで提示されている「エメ」症例における議論の理論的背景を明らかにし、研究発表を行った。これらの取り組みを通じて、1930年代のフランスにおける精神分析受容の実態を、さらに分厚く再構成することができた。 3)フランス思想史における(精神分析から独立した)「無意識」の系譜について、世紀転換期以降の心理学・心霊科学と哲学の関連という観点から新たな知見を得た。とりわけ19世紀末における実証主義的な認識論的規範の揺らぎから、この時期においてさまざまな無意識的な実体の仮説が立てられたことを説明する見通しが開けた。これらは本研究が扱う時期(1930年代以降)に先立つ事象ではあるが、前年度・本年度の研究成果により歴史的な奥行きを与えるものである。 加えて、2月にはパリに赴き、フランス国立図書館、国立文書館において1930~50年代のフランスにおける精神分析受容に関する資料調査を行った。収集した資料については現在分析を進めており、その成果を今後の研究のなかに取り入れていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
30年代における精神分析と思想の関連性について、想定していたよりも豊かな鉱脈が見出されたため、その分析に時間を費やした。また、先述したボンヌヴァル・コロックの検討においても、予定より範囲を広げて考察を行うこととなった。ただし、これは研究の停滞というよりも、フランスにおける精神分析の思想的受容の特殊な土壌をより具体的にとらえることを可能にし、研究全体に確かな実証性を与えるという積極的な価値をもつものである。
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Strategy for Future Research Activity |
1950~60年代の文脈について、継続して吟味をすすめる。無意識の実体化を回避しつつこれを理論化していくうえで、さまざまな立場から提示された議論の経路を検討し、発表としてまとめる。そのうえで、前年度・本年度の成果を総括し、「無意識の実在論」批判というプロブレマティックが、時代を通じていかに変化したか、あるいは異なる解決を得たかを考察する。
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