2023 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀フランス思想における精神分析の「無意識」概念受容とその展開
Project/Area Number |
22KJ0513
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 卓也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 無意識 / 精神分析 / 臨床科学 / フランス思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の研究実績は、以下の通りである。 1)これまでの研究をまとめる作業に取り組んだ。二年目までの研究の重要な成果として、初期ラカンにおけるメイエルソンの科学哲学への参照に関する論文を学会誌に発表した。 2)二年目の成果からの展開として、戦後フランスの科学思想史が「臨床の学」としての精神分析をいかに理解したかについて調査を進めた。まず、60年代前半のフーコーの著作における(セリュ―ら)前時代の精神医療史に対する批判、という文脈を整理した。そのうえで、「狂気の経験」の長期的な構造変化に精神分析の登場を位置づける『狂気の歴史』を中心に、精神分析が「非理性との対話可能性」を回復させたとするその主張を再検討した。また、個の合理化、症例の学という視点から同時代のフーコーの「臨床」概念を再考した。この点では、フランス・パリにおける資料調査を通じて、精神分析を絡めながら臨床科学の認識論を展開していたジル・ガストン・グランジェの重要性を確認することができた。こうした作業により、60年代における無意識と言語の関係の捉え直し、という本研究が扱う事象に、これまでにない観点から光を当てることができた。 3)精神分析における分析家の権威、およびそれについて分析家が持つ反省的な認識について、歴史的かつ集合的な観点から考察を行った。この点に関連して、精神分析家シャンドール・フェレンツィ生誕150周年シンポジウムに登壇し、1910年代において精神分析の実践がいかなる変化を遂げたかを、フロイトとフェレンツィの技法を中心として検討する発表を行った。これは直接的にフランス思想を扱ったものではないが、分析家が患者に対して有する権威をめぐる両者の反省を比較し、その相違が技法に反映されているという内容は、再帰的な知としての精神分析、という本研究の見通しと強い関連性を持つものである。
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