2022 Fiscal Year Annual Research Report
中近世における漢語の語形に関する研究―漢字音の一元化を中心に―
Project/Area Number |
21J20167
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大島 英之 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 呉音 / 漢音 / 漢字音の一元化 / 日本漢字音 / 漢語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、一つの漢字における複数の音読みが一音に収束していく「漢字音の一元化」現象を、特に漢語の語形変化や語形揺れに着目して分析することを目的としている。令和4年度は、(1)時代や資料を限定し、漢字音全体の傾向を捉えていく計量的研究に加えて、(2)様々な時代・ジャンルの資料を用いた個別字音史の研究にも取り組んだ。 (1)では、「一元化」と関連の深い、呉音・漢音を一語内で混ぜ用いる(混読)現象について、『色葉字類抄』と『日葡辞書』を用いて中世における展開を考察した前年度の学会発表の内容に対し、加筆修正を加えて論文化した(『計量国語学』33巻6号)。また、「日本語歴史コーパス」を用いて、近世における量的推移を概観した(第129回CH研究会)。同発表では、漢音の拡大が特に延べ語数において認められることも指摘した。このほか、一字一音を原則とし、かつ付音が網羅的な資料としてキリシタン版『落葉集』を取り上げ、「色葉字集」「小玉篇」においては漢音よりも呉音の方が若干多いもののほぼ拮抗していること、一元化傾向にある字音は「本篇」所収漢語の前項としてよく現れる字音と一致する例が多いこと等を指摘した(『日本語学論集』19号)。 (2)では、「萌」という字の有力な字音が、モウ(マウ)、ボウ(バウ)、ホウと歴史的に大きく変化したことを示すとともに、現代音のホウは「朋」に作る字体(萠)に由来するものと考えられ、近世から近代にかけて「朋」「崩」などと軌を一にしてボウが使われなくなりホウに一元化したことを論じた(第127回訓点語学会研究発表会)。 このほか、室町時代の漢字音資料としても名高い、『玉塵抄』の翻刻や、『文明本節用集』のデータベース化の方法や課題に関する発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までは調査対象とする資料の年代が中世に大きく偏っていたが、今年度は「日本語歴史コーパス」を用いて近世の漢語の語形を調査したほか、「萌」の字音を通時的に調査する過程で、コーパスに含まれない様々な文献を扱ったことで、近世漢字音研究として利用可能性の高い資料をいくつか検討することができた。さらに、漢字音研究の観点から個別資料(『落葉集』)の検討も行った。以上より、全体として「おおむね順調に進展している」と言いうると思われる。 一方で、一字漢語や字音語基の展開といった形態論的観点からの考察は不十分であり、来年度において中心的に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに作成してきた、古辞書等の漢語データを更に拡充して、語形揺れや一字漢語を網羅的に抽出する。このうち語形揺れについては、語義の変遷や語構成といった種々の観点に基づいて、分類・整理を試みる。さらに、一字漢語のデータとも対照させて、語形変化・揺れの要因について考察する予定である。 また、昨年度コーパスを用いて概観した近世以降の漢音の伸張について、具体的な資料を用いることで、より精緻な分析を目指す。
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