2021 Fiscal Year Annual Research Report
頭足類における新規形質 「吸盤」 に関する進化発生学的研究
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21J20450
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金原 僚亮 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 吸盤 / 形態形成過程 / 胚発生 / 頭足類 |
Outline of Annual Research Achievements |
軟体動物門頭足綱に属するイカやタコ (鞘形類) の持つ吸盤は,餌の捕獲や交接など複雑な行動を可能にし,頭足類の示す高度な知能の発達等にも密接に関わる重要な形質である.しかし,吸盤を持たない頭足類の祖先種から発生プログラムがどのように改変されて吸盤という新規形質の獲得に至ったのかは未解明であった.本研究では,頭足類の複雑な行動に欠かせない吸盤の形成過程及び獲得過程の解明を目的とする. 具体的には (1) 鞘形類における吸盤形成過程を詳細に記載し発生学的な基盤を構築する. (2) 頭足類の中で初期に分岐した系統であり,吸盤を持たないオウムガイ類の触手の形成過程を調べ鞘形類と比較する.(3) 鞘形類の吸盤形成に必須の遺伝子を特定し,吸盤形成の分子機構とその獲得過程を解明する.という3項目を並行して進めている. 2021年度は,研究1ではアオリイカSepioteuthis lessonianaを対象として腕と触腕における吸盤形成過程を詳細に記載し,既に記載済みのコウイカSepia esculentaと比較することで,イカ類全体の吸盤形成過程に関して発生学的な基盤を構築した.この成果は国際学術誌に論文として投稿し,掲載された (Kimbara et al., 2021. J. Morphol.). 研究2では主にオオベソオウムガイ Nautilus macromphalusに着目し,その幼若個体の触手について組織学的な観察を行った.これにより吸盤を持たないオウムガイと吸盤を持つ鞘形類について,触手や腕の形成過程を比較することが可能になった.研究3では,コウイカを研究対象としてqPCRによる候補遺伝子のスクリーニングとin situ hybridizationによる発現部位の解析によって実際に吸盤原基などで局在する遺伝子を複数特定し,今後機能解析等に進む準備が進んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究1,2については,今後メインの材料となるイイダコやオウムガイのサンプルを年度初めから順調に確保して組織形態学的な観察を進めることができ,さらにサブワークとして進めてきたアオリイカの知見を論文としてまとめることが出来たため,当初の計画以上の進捗があった.研究3では,in situ hybridizationについては概ね予定通り進められ,機能解析実験に進むため十分な知見が得られている.しかし,レーザーマイクロダイセクションによるサンプリングの条件検討に想定以上に時間がかかってしまったため,RNA-seqについてはまだシーケンスの結果が得られておらず,進捗としてはやや遅れ気味である.
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Strategy for Future Research Activity |
吸盤形成の発生学的な知見の蓄積については,昨年度の研究でイカの仲間の吸盤形成過程については概ねまとめることが出来たため,本年度はまず頭足類の中でイカと並んで大きなグループをなすタコの仲間についても吸盤形成過程の観察を進める.タコの仲間では孵化後すぐに着底するタイプと孵化後に浮遊性の幼生期を経るタイプの2種類の生態が見られ,孵化後の生態が異なる種間での発生過程の比較も行う予定である.オウムガイについては,現在まで行ってきた手法に加えPAS染色など様々な染色方法を試し,触手先端のヒダ構造について形態学的な知見をさらに蓄積する. また,吸盤形成の分子機構の解明については,コウイカのRNA-seqの結果をもとに吸盤形成部位で特異的に発現する遺伝子を特定し,吸盤形成に関与すると考えられる遺伝子についてin situ ハイブリダイゼーション (ISH) による発現動態の解析を行う.さらに,イイダコをメインの材料としてタコについても分子発生学的な解析を行えるように,ジーンカタログ作成のためのトランスクリプトームデータの取得やISHのためのサンプルの確保を進め,実験系を確立して分子機構についてもイカとの比較を行えるように進めていく予定である.
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Research Products
(3 results)