2022 Fiscal Year Annual Research Report
Z2渦によるトポロジカル相転移のテンソルネットワークに基づく研究
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21J20523
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 篤 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | テンソルネットワーク / 繰り込み群 / トポロジカル相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
Z2渦によるトポロジカル転移があるとされてきた二次元RP2模型の相図をテンソル繰り込みの手法によって調べた。システムサイズを変化させた場合のエネルギー準位の変化が一様に質量ギャップを生成する非線形O(3)σ模型に一致していることから、以前は相転移と信じられていたものが真の臨界点ではないことを突き止めた。さらに、反強磁性の領域の零温度を新たに調べることで、向きを持たない球面上の棒が揃うことに対応する固定点があることを突き止めた。これらの結果は、近年の共形対称なS行列による解析の結果とも一致し、RP2模型自体が臨界現象を伴う転移自体を持たないことを示唆する結果となった。 上記で用いたテンソル繰り込みによるエネルギー準位の解析方法は、広い分野に応用することができる。格子模型の転送行列のスペクトラムの臨界点付近での振る舞いは、共形場理論に摂動項を与えたものとして記述できる。この摂動項がシステムサイズとともにどのように変化していくかを記述したものが繰り込み群フローである。我々はこれまでの手法を一般化することで、テンソル繰り込みで相図を決定できることを示した。 また、テンソルネットワークシミュレーションでの数値誤差も摂動項としてみなすことで、同様の手法を適用可能である。その結果、テンソル繰り込みにおけるエラーが臨界パラメータから少しズレたものと同じスケーリングを持つことがわかり、数値誤差の定量的な推定が可能となった。 以上の結果は、論文としての発表に加え2022年の秋にウィーンの国際学会で講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一年目に実施予定であった、RP2模型におけるZ2渦のトポロジカル相転移に関しては、数値的な結果も含めて論文化することができた。先行研究や同時期に他のグループが行った研究は、我々の結果を支持するものであり、達成できたと言える。上記の結果によりRP2模型の転移は真の相転移ではなかったため、2年目に行う予定であった理論的な分類の研究は遂行しなかった。一方で、相の分類に関する数値的な処方箋に関しては、テンソルによって構成される転送行列を用いた手法を一般化することで実際に広い範囲に適用できるようになった。一方で3次元への手法の拡張に関する研究は今のところ良い結果が出ていないが、これは最終年への課題として引き続き遂行していく。 2022年度は複数回海外で講演の機会もあり、現在までの進捗状況としては概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
テンソル繰り込みやより一般のテンソルネットワークの三次元、四次元への応用を研究する。高次元の格子模型には、物質科学における結晶の模型にとどまらず、高エネルギー物理学の格子ゲージ理論の模型など非常に幅広い興味深い模型が存在する。一方で、これらの高次元の模型は、今までやられてきた1,2次元の模型に比べ見かけ上のパラメータが多く結果として非常に高い計算コストがかかることが知られている。結果としてテンソルネットワークの技術が進展する現在においても効率的なアルゴリズムはあまりない。これからの本研究の方向性として、数値的なコストを十分抑えつつ、効率的に高次元の模型に応用できる数値的手法の開発を行っていく。
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