2022 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ集光レーザーを用いた磁気ドメイン選択的ARPESによるワイル磁性体の研究
Project/Area Number |
21J20657
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 宏明 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 角度分解光電子分光 / 表面電子状態 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
hBN薄片に対する角度分解光電子分光(ARPES)測定のため、装置の改良を行った。前年度に製作したバキュームスーツケースについて、高真空を維持するための改良および手順の確立に成功した。hBN単結晶試料からスコッチテープ法により薄片を得たのち、それをARPES実験用の真空チャンバーまで窒素雰囲気または高真空環境を維持したまま輸送することで、薄片を一度も大気にさらさず清浄表面を維持することができた。その結果、hBN薄片に対するARPES測定に成功した。測定の結果、バルク(結晶内部)では対称性に由来しバンドが縮退するべき箇所が0.8 eVものギャップを隔てていることが分かった。これは、ARPESで観測できる結晶表面近傍においては対称性が破れていることに由来すると考えられる。 この点を検証するため、光電子強度分布を計算するソフトウェアを開発した。本ソフトウェアの特徴は先行研究にあるようなモデル化を行わない点であり、第一原理計算の結果を直接用いて光電子励起確率を計算することができる。このため、スラブ系のような大規模な物質も取り扱うことができる。スラブから結晶表面近傍のみを取り出して光電子強度分布を計算することで、実験で観測されたエネルギーギャップを再現することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度時点では成功に至っていなかったhBN薄片の角度分解光電子分光(ARPES)測定に成功し、想定通りの結果を得ることができた。 また、これらの結果を計算により再現することにも成功した。 計算シミュレーションにおいては、先行研究での仮定をそのまま用いると結果の再現ができず、別の仮定を使わないと再現ができないといったような、新たな知見を得ることができた。 以上の成果があったことから、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
角度分解光電子分光(ARPES)スペクトルに対する計算シミュレーションを実装するにあたり、光電子励起過程の時間発展を適切に理解する必要があった。 その結果、低エネルギー励起の光電子分光においてはこれまで無視されていた項が光電子励起確率において無視できなくなる可能性があることを見出した。 この点を検証するため、研究室が保有する7 eV・11 eVレーザーを用いたARPES装置を利用したARPES測定を行う。 強度分布を議論する場合、バンドを測定する場合に比べ試料や入射光の配置、偏向の制御など、精密さが必要となる。 これらの装置改良を行いながら実際に測定も行い、計算シミュレーションで得られる光電子強度分布と比較して議論する。
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