2021 Fiscal Year Annual Research Report
ディラック・ワイル電子系における高速な光電流・スピン流の観測および制御
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21J20873
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 誉主在 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ディラック電子 / フロッケ理論 / 異常ホール効果 / テラヘルツ波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の一つの目的として、ディラック電子系であるビスマス薄膜を円偏光パルスで励起した際に生じるスピン流の起源について解明することが挙げられる。そこで昨年度はこの目的を達成するために、円偏光を照射したディラック電子系の性質を実験的に調べることに取り組んだ。具体的にはディラック電子系であるビスマスの薄膜に中赤外のフェムト秒円偏光パルス(ポンプ光)とテラヘルツ波(プローブ光)を同時に照射し、ポンプ光による透過プローブ光の変化を観測することを試みた。ビスマスにはディラック的である電子バンドと放物線的であるホールバンドがあるが、今回はディラック電子のみを選択的に励起するためにポンプ光には中赤外光を選んでいる。プローブ光は低エネルギーに特化して直流伝導度とのつながりの見通しもよいテラヘルツ波を選んだ。円偏光励起による時間反転対称性の破れ(スピンに関連した応答など)は異常ホール効果という形でテラヘルツ波の偏光回転に現れることが期待されるため、本研究において特に重要である。 実験の結果、励起パルスが照射されている時間のみ現れ、励起光のヘリシティに依存するようなテラヘルツ異常ホール効果を観測することに成功した。これらの性質は光による周期駆動をフロッケ理論という枠組みで解析した際に期待される性質と一致する。これらの性質の他に、励起光の電場強度に比例するという特異な強度依存性が観測された。 観測された強度依存性を理解するべく、ディラック電子系におけるフロッケ理論の数値計算にも取り組み、フロッケ理論に基づくバンド構造、占有率、ベリー曲率が計算できるような枠組みを構築した。数値計算との比較から観測された異常ホール効果はディラックバンドにおけるポンプ光の1光子共鳴の寄与が支配的であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画を立てた当初は、昨年度行った中赤外ポンプ・テラヘルツ波プローブ分光の測定から円偏光によるスピン流生成の起源について理解が進むことを期待していた。ここでポンプ光としてはディラック電子を選択的に励起するべく、1光子共鳴がディラックバンド内にあるような波長を選んでいた。しかしながらこの1光子共鳴が中赤外ポンプ・テラヘルツ波プローブ分光の結果に極めて極めて大きな寄与をもたらすということが実験と数値計算を組み合わせた結果わかった。一方で円偏光によるスピン流生成はディラックバンドよりはるかに高エネルギーの光子を使った場合にも観測されているため、昨年度の実験の結果と円偏光によるスピン流生成の間の関連性は弱いと言わざるを得ない。 一方で昨年度は数値計算の技術の習得に注力できたことは研究遂行のために有意義であったと自負しているため、限定的ではあるものの研究を進めることができたとも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の実験の結果、励起光に中赤外光を用いたために円偏光誘起スピン流の起源の解明が進まなかったと考えている。そこで、これまで報告されてきたビスマス薄膜におけるヘリシティ依存光電流や申請者が研究してきた円偏光パルスによるテラヘルツ波放射とのつながりがより明確になるよう、励起光をより高エネルギーの近赤外光に変更するつもりである。また円偏光誘起テラヘルツ異常ホール効果と円偏光励起によるテラヘルツ波放射を同時に測定できる光学系を構築し、二つの現象のつながりを明確にしたうえでスピン流生成の起源について解明するつもりである。その後にビスマスから派生したディラック電子系であるビスマス・アンチモン合金について同様の実験を行う。
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