2022 Fiscal Year Annual Research Report
奇数鎖脂肪酸が示す分裂酵母生育抑制作用のメカニズム解析
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21J21126
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
星川 陽次郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 脂肪酸 / 生体膜 / リピドミクス / 化学遺伝学 / ケミカルバイオロジー / 分裂酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は奇数鎖脂肪酸による分裂酵母の生育抑制現象の分子メカニズムを明らかにすることである。特に、最も強い活性を示す炭素数15のペンタデカン酸を用いて研究を進めた。前年度までの研究結果から、ペンタデカン酸が膜脂質の組成を攪乱することで小胞体の形態異常をはじめとした各種細胞表現型が誘導され、細胞の生育抑制に至るという作用経路が推定された。本年度はこれを詳細に実証するために以下を実施した。 ① ペンタデカン酸で処理した際の小胞体の形態をより詳細に解析するために透過型電子顕微鏡を用いた観察を行った。その結果、蛍光顕微鏡による観察ではとらえきれなかった小胞体の異常構造を観察することに成功した。また、複数の小胞体タンパク質について局在解析を行い、どのようなタンパク質が異常構造に局在するか調べることで異常構造の特徴を把握することができた。 ② リピドミクスや遺伝学的解析によってペンタデカン酸がリン脂質に積極的に取り込まれることが生育抑制の原因であることを明らかにした。加えて、その積極的な取り込みに関与すると予想される脂質代謝関連分子の候補を同定した。 ③ ②で同定した分子について酵素試験を行い、反応の炭素鎖長依存性を調べることとした。予備的な実験として酵母細胞抽出液を用いた試験を行ったが、有意な結果が得られなかった。そこで精製した酵素を用いて試験を行うための準備として、大腸菌を宿主とした当該タンパク質の異種発現系の構築を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小胞体に着目した解析を進めたことによってペンタデカン酸が引き起こす多様な細胞表現型の主従関係の理解につながった。すなわち、ペンタデカン酸が小胞体の形態異常を引き起こし、その下流で細胞分裂や細胞膜の異常が引き起こされることが示唆された。また共同研究で行われたリピドミクスの結果からペンタデカン酸が酵母細胞のリン脂質に積極的に取り込まれていることが明らかとなった。そしてそれを受けた遺伝学的解析から、複数の遺伝子欠損株と遺伝子過剰発現株が顕著な耐性化・超感受性化を示すことを明らかにした。さらに、培地に特定の脂肪酸を添加することでペンタデカン酸の抗真菌効果が完全に消失することを見出した。これらの結果を統合することで、他の脂肪酸よりもペンタデカン酸が優先的に基質として利用されうる代謝反応について推察され、生育抑制現象の根本的な原因となる分子の候補を絞り込むことができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ペンタデカン酸をはじめとした奇数鎖脂肪酸による生育抑制作用の鎖長依存性の原因を探求する。具体的には、現在着目している脂質代謝関連酵素について、生化学的解析を行い反応速度の鎖長依存性を調べる。また、各種鎖長の脂肪酸で処理した際の細胞内脂肪酸やアシル CoA、あるいはリン脂質のアシル鎖の組成の変化を分析する。 加えて、ペンタデカン酸に誘導される小胞体の特徴的な構造についてさらなる解析を試みる。より高解像度な画像を取得できる蛍光顕微鏡を用いて異常構造を三次元構築することでその形態をより詳細に理解することや、小胞体タンパク質の局在解析をさらに推進する予定である。
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