2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J21415
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀口 修平 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 獲得免疫系 / T細胞 / 勾配流 / 勾配降下法 |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫系は過去の経験を記憶・学習することにより未知の標的に対しても適切な免疫応答を惹起する情報処理システムである。数ある免疫細胞の中でもT細胞は多様な表現型をもち、体内を自由に移動することができる。T細胞集団における表現型の分布や空間分布が適切に調節されることで、その他の免疫細胞への情報伝達がなされて免疫応答が引き起こされる。T細胞の表現型の変化や遊走についての実験結果を説明するような数理モデルは存在するが、免疫系の機能との関係は不明瞭である。そこで本研究では、強化学習理論を始めとする情報処理の理論と、T細胞集団の振る舞いを接続するような理論の構築を目指している。 そこで本年度は、学習を実現するための基本的なアルゴリズムである勾配降下法に注目し、細胞集団の表現型の分布の時間発展によって勾配降下法のようなアルゴリズムが実装可能かどうか検討した。まず通常のユークリッド空間における勾配流をリーマン多様体における勾配流へ拡張することで細胞集団動態を実現できるか検討したところ、細胞の増殖と流入動態は実現できるが表現型の変化は実現できないことが分かった。次にフィンスラー多様体などのより一般的な準距離空間における勾配流について検討したところ、細胞表現型の変化動態を記述できることが分かった。実際、ウイルス感染に対する免疫応答の際のT細胞の増殖・表現型の変化を記述した既存の数理モデルは、勾配流としても導出できることが新たにわかった。 この結果は、T細胞に限らない一般の細胞集団動態についても勾配流となるクラスが存在することを示しており、細胞集団動態によって実現される情報処理の理解にむけた新たな可能性を拓いた。これらの成果について投稿論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は増殖・流入・分化する細胞集団の動態と勾配流をつなげるような理論を構築することに成功した。当初想定していなかったが、ウイルス感染に対する免疫応答の際のT細胞の増殖・表現型の変化を記述した既存の数理モデルをこの理論のもとで導出することができた。T細胞に限らず一般の細胞集団動態に適用可能な理論であり、今後の研究の可能性が広がった。本年度は国内学会にてこれらの成果を発表しており、学術雑誌への投稿の準備も進んでいる。よっておおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
T細胞の動態をより現実的に表現できるように勾配流の枠組みを拡張する。たとえば、免疫応答においては細胞齢や分裂回数に依存してT細胞の分裂率が変わることが知られており、多くの実験データが得られている。細胞齢や分裂回数を踏まえた勾配流の理論を構築できれば、実験データとの関係をより考察できる。他にも、免疫細胞の遊走についても勾配流の枠組みから考察する。
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