2021 Fiscal Year Annual Research Report
陽電子ビームによるホウ素単原子シートの構造解析と機能性開拓
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21J21993
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻川 夕貴 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 原子層 / ホウ素化合物 / ボロフェン / ボライド |
Outline of Annual Research Achievements |
ホウ素の単原子層シートであるボロフェン及びホウ素の二次元化合物は多彩な二次元構造とそれぞれの構造に対応した物性をもつことが知れらている。本研究では全反射高速陽電子回折法(TRHEPD)を用いて世界に先立ち実験的に二次元ホウ素物質の構造解析を行うことでこの構造決定を行い、角度分解光電子分光法をはじめとした電子状態の測定結果と合わせて、原子構造と電子物性を関係を明らかにすることを目指している。 初年度の研究経過として以下の二つの単結晶基板上に作成したホウ素原子層シートについての研究成果を報告する。異なる基板上で作成されたホウ素単原子層シートは異なる構造及び物性をもち、その系統的な解明は重要である。 (1) Ag(111)基板上にB原子を蒸着することでχ3-ボロフェンを作成し、その構造解析を行った。金属単結晶基板の取り扱いの難しさから詳細な構造決定には至らなかったものの、ボロフェンの主要な構成部位である二次元三角格子を示唆する測定結果が得られた。 (2) Cu(111)上のホウ素化合物は均一な構造が広範囲に作成されることで知られている。しかしこの構造について、B原子だけの単原子層シート(ボロフェン)であるという主張[1]と、表面でB原子とCu原子が結合した二次元ホウ化銅(Cuボライド)であるという二つの主張[2]がなされている。両報告ともに同様の走査型トンネル顕微鏡像及び回折パターンをもとに構造を提案しているため、本研究でTRHEPD法によって同物質のロッキング曲線(RC)を測定し、その構造解析を行った。結果、同物質がボロフェンではなく二次元ホウ化銅であることがわかった。XPS測定も行い、同様に同物質が二次元ホウ化銅であると示唆する電子状態を得た。
[1] R.Wu et al.,Nat.nanotech.14,1(2019). [2] C.Yue et al.,Fund.Res.1,4(2021).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ag(111)基板上のホウ素単原子層ボロフェンについて、歴史的に理論家によって提唱されていた二次元の三角形部分構造を示唆する結果を得た。電子状態の空間分布を測定する走査型トンネル顕微鏡(STM)の他で、ボロフェンの二次元面内の構造の報告は未だない。原子構造を直接確認できる回折法によりボロフェンの二次元面内構造が確認できたことは意義深い。 さらに、Cu(111)基板上のホウ素化合物について、その構造がCuとホウ素の化合物であるCuボライドであることを突き止めた。こちらの物質はボロフェンであるという見方が長らくされており、Cuボライドであるとはじめて報告した研究の他、ボロフェンと解釈した研究が多く報告されている。本研究でCuボライドであることが判明したことは以下の二点において意義深い。1つ目はボロフェン研究において構造解析の重要性を示した点である。ボロフェンは理論的に多彩な構造が安定して存在する。そのためSTM像を再現し得る安定した構造が複数存在し得る。今回の結果は、今までのSTM像の確認と理論モデルの提唱に加え、その構造モデルを実験的にも検証する必要があることを示唆している。2つ目に、今回の結果はCuボライドについての研究を新たに推し進めた点である。ホウ素は様々な金属と化合物をとるが、銅族と亜鉛族の金属ではボライド化合物を形成しないことが知られている。Cuボライドは二次元になったことで安定した新奇なボライド構造である。さらにCuボライドの構造はホウ素と銅のジグザグ鎖が交互に並んで二次元構造をとる。このホウ素の擬一次元的あるいは異方的二次元構造はその低次元性から、構造と電子状態の相関について興味深い知見が得られると考えられる。以上、二次元ホウ素単原子層ボロフェンだと期待していた物質が、実際には一次元ホウ素が周期的に安定して並んだ構造であることがわかった今回の研究結果は重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究においてCu(111)基板上のホウ素化合物がCuボライドであることが判明した。結果、擬一次元的なCuボライドの構造についての新たな知見が得られた。この構造が電子状態に与える影響について正確に理解するために、角度分解光電子分光法(ARPES)などによって実験的にその電子物性を確認する予定である。 また、Ag(111)基板は単原子層のボロフェン、Cu(111)基板上はCuとBの化合物であるCuボライドと、基板に依りその上で合成されるホウ素化合物の構造が変化することがわかった。この基板依存性について考察を進めるため、他の基板におけるホウ素化合物の構造解析を進める予定である。基板の候補はCu(100)とCu(111)の微傾斜面及び合金基板である。Cu(100)基板上でボロフェンが合成されると最近報告[1]されており、この構造とCuボライドとの比較を行う予定である。またCu(111)微傾斜面においてホウ素化合物の合成を試みることで、Cuボライドのジグザグ鎖の形成について考察する。上記の二つの基板での研究によってCuボライドの成長様式について新たな知見が得られると期待される。合金基板はボロフェンの合成が報告されているAuとCuの合金基板を第一の候補としているが、合金基板上にホウ素化合物の合成を成功した暁には、構造が基板の格子定数に依存するのか、基板のポテンシャルに依存するのか、二次元ホウ素化合物の成長様式について系統的な理解が得られると期待できる。 さらに近年ではホウ素と水素の二次元化合物であるボロファンの研究が注目されている。ボロファンの多くは化学的手法によって合成されているが、本研究で合成されたホウ素化合物に水素を蒸着することで、新たなボロファンの合成を試みてその構造を解析する。
[1]R.Wu et al., Nat. Chem. 14, 377 (2022).
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Research Products
(4 results)