2021 Fiscal Year Annual Research Report
位相安定な高強度中赤外光パルスによる高速物性制御とそのサブサイクル分光計測
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21J22162
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山川 貴士 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 非線形光学 / 超高速現象 / 強相関電子系 / ドレスト状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
高強度フェムト秒中赤外パルスを励起光とした固体のサブサイクル分光測定による研究を行っている。サブサイクル分光とはポンプ・プローブ分光の一種であり、ポンプ光の電場の周期より短い時間幅のプローブ光を用いるものを指す。当該年度では、光照射下における非平衡定常状態である光ドレスト状態による光学応答の変化をサブサイクル分光にて観測した。さらに、三次の光非線形性に基づくシミュレーションによって、応答の機構を明らかにした。 対象物質は1次元モット絶縁体[Ni(chxn)2Cl](NO3)2 (chxn=cyclohexanediamine) である。ポンプ光である中赤外パルスによって光ドレスト状態を誘起し、可視7 fsパルスを用いて反射率変化スペクトルを測定した。観測された反射率変化には、ポンプ光の包絡線に沿って変化する低周波成分と、ポンプ光の2倍の周波数で振動する高周波成分が観測された。反射率変化は、最大で45%に達し、ポンプ光電場の消失後直ちに平衡状態へ回復した。 反射率変化が生じた機構を理解するために、3次の非線形光学効果に基づいたシミュレーションを行った。基底状態と3つの励起子準位だけを考慮した単純なモデルを使用したが、高周波成分の位相を含めて実験をよく再現する結果が得られた。観測された応答は、光ドレスト状態を構成するサイドバンドによってプローブ光が散乱される過程として理解することが可能であり、複数の散乱過程が干渉することによって反射光強度が変化することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、中赤外パルスによって誘起される光/電場誘起現象の探索と機構解明である。当該年度の研究では、光ドレスト状態の形成によって生じる光学応答の変化をサブサイクル分光にて測定した。サブサイクルの時間スケールで起きる光学スペクトルの変化を詳細に解析した重要な研究成果である。このことから、現在までの進捗状況は(2)に該当すると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
中赤外パルス励起によるサブサイクル分光測定によって、新奇な光/電場誘起現象の探索を進める。対象とする物質は2次元有機分子性固体のκ型BEDT-TTF塩である。この物質は低温で強誘電的な電荷秩序状態へのゆらぎを示すことが示唆されている。そこで、分子間の電荷移動と強く結合した分子内振動を共鳴励起することによって過渡的な強誘電電荷秩序状態を誘起できると期待される。さらに、測定系の機能拡張も行う予定である。
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Research Products
(3 results)